小説 「獄門鉄鎖」 二十三
February 12 [Sun], 2012, 20:18
20XX年 3月5日 PM10:01 西地区Fエリア 草原地帯
「光失せ闇に紛れ、獣たちの息づく絶好の隠れ家となりつつあるかね」
不敵な笑みを浮かべながらゆっくりゆっくりと歩みを進める。
星の瞬く空の下、わずかな明かりを頼りに茂みをかき分けながら進んでゆく。
手頃な岩を見つけると担いだ武器を下ろしそこに腰掛け、
ポケットから取り出したタバコに火をつけ、大きくふかす。
立ち上りゆらめく煙を通して遠い目をしながら、向こうに見える灯りに目をやった。
空がほんのりと赤く染まり、月や星はやけどをしかけている。
口の端をつりあげ、妖しげな表情を見せる。
空に放り投げたタバコが地に跳ね返る刹那、それを踏みつけつぶやく。
「次は、君たちか」
すくっと立ち上がり、立てかけた武器を担ぐと、
その灯り目指して茂みの中へと消えていった。
20XX年 3月5日 PM10:05 西地区Fエリア 山岳地帯 山麓
密かに山を下り、敵陣の方へと向かおうとする姿。
滑り落ちないように一歩一歩慎重に踏み出しながら歩く。
「本当に大丈夫なのか?」
足元を懐中電灯で照らす石田に問いかける。
「大丈夫ですよ、橋本さん。必勝の策、なんて啖呵切っちゃいましたけど、
いたって単純である割にはそれなりに効果はあると思うんです。」
「それにしてもよ、よく考え付いたもんだよな、火攻めにするなんてよ」
石田の練った策、それは火攻め。
敵陣がかがり火による照明で照らされているのは既に周知。
となれば、頼みにしている火を逆手に取って火攻めで一網打尽にすることが出来る。
そう踏んだ石田は敵陣近くに置き去りにした地雷の3つのうち1つを分解し、
そこから得られた火薬で敵を炎に取り巻こうとしたのだ。
「あ、ここから岩がごつごつ出てるんで気をつけてくださいね、水野さん、佐藤さん」
藪の中に隠れた石や岩、放棄されたごみやぬかるみに
思わず足をとられることのないように注意を喚起し、
懐中電灯で水野と佐藤の足元を多めに照らす。
「お、いたいた。すぐ見つかるわ、あんな明かり点けてたら」
半笑いで敵陣の方角を指差す佐藤。
闇の中で唯一真っ赤な点となって空を赤く染めている。
それにあわせて立ち止まり、石田と橋本は辺りの藪を突っつき始める。
「いきなり何してるんだ?」
「この辺りの藪に地雷を隠したんですよ。
さっきここに来た時に、敵を先にある程度倒してからでないと、
こんな重いものを持って敵陣に入ったら見事に的になるので、
この辺に隠しておいたんですよ」
怪訝そうな顔をする佐藤に藪の中を探しながら石田が受け答える。
すると、藪をさらう棒を握る手に、かつんという音とともに
棒が固いものに跳ね返される感触を感じた。それを頼りに藪の奥を探してみると、
そこには、見事にさっき隠した地雷が3つ並んで、
仲間の帰りを待ちながらこっちを見つめていた。
「ありました!」
石田はその中の1つを取り出し、先程塹壕前で倒した敵から得た
書籍「兵器知識」とマイナスドライバーを手に取ると、本を見ながら分解を始めた。
周りの3人は不意の爆発の脅威に少し不安げな顔をしながら体をのけぞらせている。
ネジをひとつはずし、ふたつはずし、ふたを外すと、またネジを外す。
静かで地味な作業ながらも恐怖の付きまとう2分間の解体作業の後、
それは四人の目の前に姿を現した。
「とうとう出てきましたよ、火薬」
「ほう、これはなかなかの量だ」
「これだけあればうまく行くな」
対戦車用の地雷なだけあって、取り出せた火薬の量はなかなかのものであった。
これを敵陣のかがり火を使って爆発させれば敵はひとたまりもないだろう。
「よし、行きましょう!」
四人が立ち上がったその時、敵陣の方で爆発が起こる。
ドガーン!!!!
反射的に顔の前に交差した腕の隙間から覗き見ると、
火柱があがり、黒煙がもうもうと立ち上っていた。
「なんだ、なんだ!」
敵陣は慌ただしくなり、銃声が聞こえ始める。
しかし、それはこちらにではなく、誰かと戦っているようだ。
好機と見た四人は目を見合わせる。
「よし、加勢するぞ!!」
水野の声に合わせ、石田と橋本と佐藤の三人は、
藪を飛び出し敵陣に突き進む水野の跡を追った。
―続―
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