グレイト?ギャツビー

October 10 [Thu], 2013, 12:45
なぜかれらは東部にやってきたのか、ぼくは今も知らない。かれらはこれといった理由もなく一年をフランスですごした後、ふらふらと、ポロをやる金持ちの間を渡り歩いていた。今度は永住する、とデイジーは電話で言ってきたけど、ぼくは信じていなかった――デイジーの胸のうちはまったく読めなかったけれど、トムからは、も最大80%オフ敗色濃厚なフットボールの試合とかに見られるドラマチックな騒乱を、どこか物足りなさそうに探し求めて永遠にさまよいつづけるのではと思わせるような、そんな感じがしていた。

それでぼくはあの夕べ、よく知っているとは言いがたい2人の友人を訪ねて、車をイースト?エッグに向けて走らせた。ブキャナン夫妻の住まいは予想をはるかに越えるものだった。湾を見下ろすように建つ、感じのよい、赤と白のジョージア王朝風殖民時代様式の屋敷。芝生は海岸のところからスタートし、そこから玄関までの400メートルを、途中、日時計を、煉瓦敷きの道を、色鮮やかな庭を飛び越えながら走り――やがて家屋につきあたったところで、余勢を駆るみたいに、つややかに光る蔦となって家の壁をよじのぼっている。財布 通販正面はフランス窓が並んでいて、それが夕日を黄金色に照りかえしながら、熱っぽい午後の風をとり入れるために大きく開かれていた。玄関には、乗馬服を着たトム?ブキャナンが、大股に立っていた。

トムはニューヘイヴン時代とは変わっていた。髪は藁色、口調はどちらかといえば乱暴で、マナーは尊大。いまや精力的な30代の男になっていた。どんな顔をしているときでも横柄にきらめく両の瞳がとにかく目につき、そのせいで、行動には突っかかってくるような感じがつきまとう。優美な乗馬服姿でいるときも、その肉体に宿る力を隠せてはいなかった――鈍い光を放つブーツはいかにも窮屈で、編み紐のいちばん上は苦しげに結ばれ、また薄い上着の下で肩が上下すると、一塊になった筋肉の動きが分かる。そこにはすさまじい力が含まれていた――壮烈な肉体だった。

しゃべる声は無愛想な、かすれぎみのテナーで、かれの気難しそうな印象を余計に強めていた。口のきき方にどこか家父長的なところがあって、自分が好意をもっている相手にさえもそんな口のきき方をする――そういうところから、ニューヘイヴン時代から心底かれを嫌っているひともいた。

「単におれがおまえよりも強くて男らしいからといって、おれの意見が絶対だなんて思わなくてもいいんだぜ」と言外に表明しているみたいだった。ぼくらは同じ上級生サークルに所属していた。それでまだ親しくないうちから、ぼくはずっと、かれから認められていて、かれのことを気に入るように望まれているような印象を受けていた。それもかれらしい、性急で乱暴な形で。

ぼくらは陽のあたるポーチですこし話をした。

「いい家を見つけてね」とトムは言った。落ちつきなくあちこち視線を走らせている。

片腕がぼくの背中に回され、ぼくは体の向きを変えられた。正面の景色をトムの大きな手が横切る。その先に、イタリア風の沈床園があり、真っ赤な、強い香りを放つバラ園が半エーカーほど広がっていて、ビーチでは先のそりかえったモーターボートが波に揺れていた。

「前はデメインという石油屋のものだったんだ」と言うとふたたび、丁寧に、けれども断りなく、ぼくの体の向きを変えた。「さ、中に入ろう」

ぼくらは吹き抜けの大広間を抜け、薔薇色のスペースに入った。壁の端にはどこもフランス窓がとりつけられていて、かろうじて家の中にあるといった格好だ。半開きの窓は外の新緑を背に白く輝き、新緑はといえば部屋の中へと入りこんできそうな勢い。部屋を吹きぬけた一陣の風が、カーテンを煽って色あせた旗のように大きく揺らし、砂糖をふったウエディング?ケーキのような天井へとよじりあげた。そうして、海を渡る風のように、ワインレッドの絨毯に波を立て、影を走らせる。

部屋の中でじっとしていたのは、大きな長椅子ただひとつのみ。その上に、ふたりの若い女性が係留気球にでも乗っているかのように浮かんでいた。ふたりのドレスが波打ちはためくさまは、家の外を軽く一周翔んできたのだろうかと思わせる。ぼくはしばらくの間、カーテンが鞭のようにしなる音と、壁の絵画がたてるうめき声とに気を奪われていたに違いない。不意にトム?ブキャナンが後背の窓を閉める音がして、部屋の中から風は閉め出された。すると、カーテンも、絨毯も、浮かんでいた2人の女も、ゆっくりと床に降りてきた。

ふたりのうち、年下の女とは初対面だった。長椅子の片側に全身を伸ばしてねそべり、身じろぎひとつせずに、ちょっとだけあごを上げている。まるで、あごの先に何かを乗せ、それを落とさないようバランスをとっているみたいだ。ぼくの姿を視界の端にでもとらえてくれたのかどうか、その手がかりすらくれなかった――実際、ぼくはもうすこしで入ってきたことを謝りそうになった。

もうひとりの女、デイジーは起きあがろうとした――誠意ある態度でやや上体を起こした――それから、笑った。取りたてて意味のない、それでいて魅力的な、軽やかな笑い声。ぼくもまた笑いながら、部屋の中央へと進み出た。

「わたし幸せにあたって、麻、麻痺しちゃった」

ウィットに富んだことを言ったつもりなのか、また笑った。それからぼくの手をしばらく握り締め、ぼくの顔を見上げた。世界中どこを探してもぼく以上にあいたかったひとはいないと誓うように。前と変わらないやり方だ。それからささやき声で、バランスをとっている女の姓がベイカーだということを教えてくれた。(デイジーのささやき声は、相手の顔を自分のほうに吸い寄せるためのものにすぎない、と言ったひとがあった――いわれなき誹謗であり、その声からちょっとでも魅力を削ぎおとすものではない。)

ともあれ、ミス?ベイカーの唇がかすかに動き、ぼくにむかってほんのちょっとだけうなずいてみせ、それからすぐにもとのように反らした――荷物のバランスが少しだけくずれ、それであわてふためいたとでもいうのだろう。先と同じく、ぼくは詫び言みたいなものを口にするところだった。高慢なふるまいをあからさまにみせつけられれば、思わず誉めてやりたくなってしまうぼくだから。

ぼくは従妹に目をもどした。低い、ぞくぞくするような声で、質問がはじまった。それは思わず耳を引きこまれるような声であり、言葉のそれぞれがもう二度と奏でられることのない旋律のようだった。顔は憂いをふくみ、それでも内に輝くみたいな愛らしさを含んでいる。つややかな瞳、つややかな、誘うような口元。けれども、その声は男の気をひき、けっして忘れ去ることができそうにないと思わせるような、刺激があった。歌うような恣意。「聞いて」というささやき。いまちょうど楽しんできたのだ、それでほんのしばらくうきうきしている。それからいまも楽しいことがあって、これから数時間も楽しくうきうきするようなことが続くのだと保証するような。