【オリジナル小説】川を流れる水のように 序章 【赤い風】

October 14 [Fri], 2011, 3:40

川を流れる水のように  序章 【赤い風】


―暑い日だった。
その日、俺は全てを手に入れるはずだった。―



―モエテ、ル…?

目の前の光景を言葉に変えて反芻し、一瞬遅れて頭が認識する。
広がる紅蓮の炎が全てを奪って行くのを、俺はただ呆然と見つめた。

(戻りたい、戻りたくない、戻らなきゃ、…モドレナイ)

強すぎる恐怖と不安。
強迫観念にも似た「何か」に縛り付けられたように見晴らしの丘に立ちすくみながら、胸にせり上がる感情を堪えるように拳を握りしめた。
歯の根が噛み合わなくてガチガチ鳴る。
力を籠めすぎた拳が、ガタガタと震えながら濡れていくのを感じた。

好きだった。
この丘から見下ろす自分の街が。
空の青の似合う、夕暮れの太陽の似合う緑豊かな街が。
今、赤に飲みこまれているこの街が。

風にのって届く灼けた空気が、喉にちりちりと痛い。
頬に濡れた感覚がしたが、それが何なのかも解らなかった。

何かが、俺の中で壊れた。


…愚かな。我は言った。我を起こすなと。


頭の中に響く声にビクッと躯を震わせる。
躯が強張って、俺はようやく自分の頬を伝うものが自分の涙だということに気付いた。

「…ンでだよ。関係ないじゃんあの人達は!ただあそこにいたってだけだろ!なのに、何で…ッ!」

穏やかな幸せがあった。
皆、日々を劇的な変化もなく、しかし平和に、この地で小さな幸せを育んでいた。
それが一瞬にして壊された。
…俺が、壊してしまった。

声がかすれる。
悲痛な、叫びにもならない叫び声をあげると自分の無力さが思い知らされた。

「あの人達は関係ないだろう!!!」


…知ったことか。封印を解いたものに等しく絶望を与える、其は我が運命。


響く声が無情に言い放つ。
歯を食いしばり、ぬるつく拳を更に強く握りしめた。

「…そうかよ。なら…お前には俺が絶望を与えてやる

握り締めた拳からしたたる雫は、それは目の前の業火よりも紅かった。



―暑い日だった。
その日、俺は全てを失った。―


P R
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