大空をかける恋 

October 30 [Tue], 2012, 20:04
ツイッターに載せた創作をまとめてみました
戦争ネタ、神風特攻隊ネタです。
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「これを僕だと思って、大切にしてください」
そう言って彼は白い桜の描かれた赤い鼈甲の櫛を渡す。
「どうゆうことなのですか?」と私が尋ねると、彼はしばらくだまりこむ。
幾分たったか、それ以下か。彼は重い口を開き「僕は、お国のために散っていきたいと思います。」と言った。
「え・・・?」と私が硬直していると、それに応えるかのように、彼は「特攻隊に・・・志願しました」と一言。
足元にぽっかりと穴が空いて、落ちていくような感覚。驚きと悲しみが胸を包む。言葉が出ない・・・。
「どうして・・・どうしてあなたが・・・」やっと出てきた言葉はこんなものだった
自分は泣いているのだろうか?
彼は優しい表情で、それでも凛として「日本男児として、僕はお国のため、あなたのため、散っていきたいと思います。だからこれを僕だと思って受け取ってください」
そう言われても素直に受け取れない。頬を伝う涙は止まらない。

本当は征きたくない。彼女を心から愛している。何もかも放り出して彼女と幸せな将来を生きたかった。
でも、それはかなわないことだろう「僕はお国のために散っていきたいと思います」正反対の言葉。
自分に言い聞かせるような台詞。
彼女は泣き崩れて征くなと言う。私は涙を堪えるのが精一杯であった
思えば、私が彼女と出会ったのはこの場所であった。
しだれ桜の咲く川沿いの道。そこで私たちは出会い、恋を実らせ。私の航空部隊への入隊を祝い、同時にお互いの将来を誓い合い、そして今・・・永遠の別れを告げようとしている。
私たちの恋は、ここで始まり、ここで終わるのだ・・・。
「今まで、ありがとう・・・愛している・・・永遠に・・・。」
そう言って、私は、泣いている彼女を軽く抱きしめ、いつも以上に背筋を伸ばし、一度も振り向かず、基地に戻りました。

私はまだ泣いていました。
そんな私を、彼はじっと立っていた。
彼は今、飛び立とうとしている。だけどそれを受け入れられない自分がいる。
彼との思い出が走馬灯のように駆け回る。
初めてあったときのこと、彼の思いを受け入れたときのこと、彼が入りたがっていた航空部隊に入隊したときのこと。そして、彼の妻として二人の将来を誓ったこと・・・。
思えば、その記憶の中心にいつもあるのが、この場所であった。
ここで彼は私を受け入れ、そして、ここで永遠の別れを告げている
以前と泣き崩れる私に、彼はそっと唇を開いた。
それは、私に特攻隊の志願を告げるより、もっと軽く、優しいものに思えました。
「今まで、ありがとう・・・愛している・・・永遠に・・・。」
彼はそう言うと、私を抱きしめ、そして凛と胸を張って基地の方へ帰ってゆきました。
私は彼からもらった櫛を握り締め、彼が見えなくなるまで見ていました。
しだれ桜の花はいつになく咲き乱れ、散っているように思いました。

その日は澄み渡る晴天でした。
私が今立っているのは、見晴らしのいい丘。
かつて彼の入隊が決まった時に、彼に連れられて来た丘。
「ここから海に抜けるには、ここを通るんだ、だからよく飛行機が見える」
そう、そう夢を現実に笑った彼が今、ここを通って旅経とうとしているのです。
澄み渡った春の晴天。周りは何もなくほとんど鳥の鳴き声しか聞こえない場所に、遠くから、ゆっくりと飛行機のプロペラが回る独特のあの音が聞こえたかと、上空に無数の飛行機が晴れた空を飛んで行きました。
その中に一つ、皆よりも低く飛んでいる飛行機が見えました。
操縦席に座っていたのは彼でした。
彼は私に気づくと、満面の笑みで凛と敬礼をしてくれました。
私は、涙を抑え、彼からもらった櫛を握り締め「いってらっしゃい」と笑顔で敬礼して、彼らの飛行機が見えなくなってもずっと同じ体勢で見送りました。
私に残る彼の笑顔は、あれが最後でした。

そして数日後、彼の戦死を告げられたのです。

彼女が丘の上に見えたとき私はどんな心持ちだったかわかりません。
ただ「嬉しい」それだけでした。
いえ・・・それ以上かもしれません。
私は彼女が見えるようにできるだけ低く飛び、彼女に笑と敬礼をして、兵士としての勇ましい別れと、夫らしい別れを告げ、海に出ました。
燃料は半分。生きる事も帰ることも許されない状況の不安な中で、彼女の存在はどれほど光って見えたでしょう。
次々と突入していく仲間や、残念ながら追撃されてしまう仲間を見て、彼らとの思い出がよぎります。
ですが、悲しくはありませんでした。皆で約束したのです。「靖国で会おう」と・・・。
いよいよ私の番が回ってきました。
私は一息ついて、ポケットにある彼女が入隊した時にくれたお守りを握り締め、体制を整えました。敵の戦闘機の攻撃を避け、敵の艦隊が目前に見えたとき、私は操縦桿を離し大きな声で言ったのです。

「━━━、愛してる。」


彼の死後、私心持ちはといいますと、宜しくないと言えばそうなのですが、重くのしかかるような悲しみはありませんでした。
特攻隊として死んだ彼の遺留品はありませんでしたが、ひとつだけ、あの別れのあと書いた私宛の手紙を受け取りました。

「前略━━様 先程は辛い告白をして、あなたを悲しませてしまい、申し訳ありませんでした。
ですが、皮肉にも事実であります。
本当は先ほど、いろいろ言おうと思ったのですが、別れが辛くなると思い。あのような態度をとってしまいました。
ですから、この場を借りて再度言おうと思います
とは言っても、先ほど、あの場で半分話してしまったのですが、ひとつだけ言えないことがありました。
それだけ伝えたいと思います。
私は明日、この世界からいなくなるでしょう。あなたはその悲しみから立ち直れないかもしれません。
ですが、私にとって、あなたが悲しむ姿が、私にとっての悲しみなのです
私はあなたを愛しています。
愛してる故に、あなたが私の死と言う過去にとらわれて生きていけなくなるのは、どうしても嫌なのです。
私は死んでもなお、あなたの心の中に生き続けます。
ですから、生きてください。私の分も、精一杯生きてく(霞んで読めない)
最後に、私なんていう男を、夫として認めて下さり、ありがとうございます。
子供には会えませんが。生まれてきた子供には、私の話をしてやってくだい。
私はこれだけで幸いです。
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
愛してる。

昭和○○年○月×日

━━ ━━━」

読み終わったあと、また涙が零れそうになりましたが。それは嬉し泣きだと気づき静かに涙を零しました。
私は彼の死を無駄にする気はありません。彼は私と生まれてくる子供の中に生き続けるのですから。
あの日のような澄み渡る晴天の空の下。
私は鼈甲の櫛で髪を留め。あのしだれ桜の下で彼との過ごした日々を、息子に語ります。
静かな晴天、ふわっと風がそよぐと、しだれ桜の揺れる音と共に、プロペラの独特のあの音が聞こえたように思えました。

「おかえり」
                                             
                                                          おわり


長いお話を読んで下さりありがとうございます
私は戦争時代に生まれていないのですが
毎年八月になると、私と同じような年齢の方が多く亡くなられたことに悲しみと複雑な気持ちでいっぱいになります
今回はそんな彼らのあったであろう話を不謹慎ですが書いてみました。
今も国際状況が不安定でありますが
あの時と同じ惨劇が二度と起きないよう
少しでも多くの人が、戦争について考えてくれればと思います
ここまで読んでくださった方本当にありがとうございました。
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