都合と事情と感情論

September 22 [Sat], 2012, 0:31
火原に仙台から帰ってくると告げられたのは昨日。
みっちり書き込まれた土日にため息をつき、断りの電話のために携帯に手をのばす。


ちょっと懐かしくなって。
今月余裕があるから。
日野ちゃんが、県のコンクールでるって。
土浦とサッカーしたくって。

火原が帰ってくる理由も、フットワークの軽さも、相変わらずというか。
柚木の中に、眩しいような気持ちを起こさせる。
携帯の火原の画面をながめて、少しだけその眩しさを思った。


大したことじゃない。
よく帰ってくるし、きっと他に会う相手はいるだろう。


かけられない理由は、きっと自分の方にあるのだ。

変わらない火原と変われない自分。

(退行してる、なんて言われかねないね)
内心の思考に自嘲の笑みを浮かべ、ようやく柚木は火原に電話するボタンを押す。

予定が詰まっていて、火原と会う時間がとれそうにないことを端的に話すと、
「そっか、忙しいんだね。」
と、軽い口調の返事とは裏腹に、向こう側からずっしりと落ち込んだ空気が伝わってきた。

柚木は無理しすぎ、とかそんな軽口と心配を口にして、電話は終わるとおもっていたのに。

「どうしても無理そう?俺、柚木の家行ってもいいよ。」
珍しく、火原は食い下がってきた。
「何か、僕に会う必要があるの?」
ふと、辛辣な言葉が口をついて、はっとする。
会えないことに、自分も苛立っている、なんて火原にはきっと伝わらない。
「必要って…柚木、たまに俺にだけ冷たいよねー、ひどいよ。」
軽口で帰ってきたことに、安堵する。
柚木が応酬の言葉を投げようとした、その時。

「でも、俺柚木会うために、戻ってきた。ほんとだよ」


柚木は、眩しさに目がくらむような思いで、火原の言葉に耳を傾ける。

(なんで、こう、まっすぐなんだろうね。)

実家で高一の時のお互いの演奏が録画されたビデオがあったこと。
DVDにして渡したいこと。
せっかくだから、過去の演奏の映像が見たくなったこと。

「…で?既に組まれた予定を無理やり開けるだけの急ぎの用事には感じられないんだけどね。」
火原の用件ににべもなく言葉を返して、内心では酷く後悔している自分もいる。
火原はついに黙ってしまった。

そうして、自分は相手に言わせたい言葉を言わせようとするのだ。
言ってくれないことで、失望して期待しないようにしようとしているのだ。
結局、自分は変われてなどいない。

柚木はどこかで、ほっとした。
眩しさに憧れる自分の立ち位置を取り戻した気がして。
「疲れてるから、」
そう、切り出したのは電話を切るためだったはず。
「火原に、会いにいってやるよ。」
眩しさの中で、いつの間にかその光に身を預けることを覚えた自分に。
柚木は、思わず携帯を取り落とした。

受話器の向こうで、狂喜する火原の声がする。
火原が、呼んでいる。
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3Bが好きすぎて、本家から飛び出してしまったですー。
別名義で、ネオロマ中心で、オンリーやらコミケやらに出てたりなかったり(笑)
今はとりあえずつなぎません(笑)
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