胸の中でほころぶ何か 

August 03 [Thu], 2006, 2:26
彼と初めて出会った1週間後に
プロジェクト最後の仕事である説明会が行われた。

友達でもあり仲間でもあり上司でもあるK氏が
営業所の何人かに、説明会のお手伝いを依頼していた。
当日お手伝いに現れたのは、
1週間前に出会った彼と所長さんだった。

初めて会った時にも、
ずっと以前から知っていたような感覚があったけど
また今回も同じように、
もうずいぶんと長いこと知っていたような感覚を伴った。
それくらいに彼が人見知りをしない
稀に見るくらいオープンな心の持ち主だからなのかもしれない。

説明会は、とりあえず無事に完了して
彼ととくに話すこともなく
淡々と会場撤去をして
淡々とお疲れ様を言い合って別れた。

もう会うこともないだろう。
そう思っていた。

大体今まで営業所へ足を運んだことは
ほとんどなかったのだし
営業所で誰が働いているのかも知らない。
営業所の人が私を知るはずもないのだし。

もう会うこともない。
それでも、また会いたい。
もし、会えるのならば。
そんなふうに思っていた。

だから、お疲れさまメールを出した。
もちろん、彼と所長に宛ててだ。

返事をもらえたらうれしいな。

そう思っている自分がいた。

会いたいな。
会いたいな。
もう一度。

そう思って1ヶ月程過ぎた頃
朝出社すると、彼がいた。
営業所から、何かを運んできたらしい。
彼を見つけた途端に、口角が上がるのがわかった。

目が合ったときに、
自分でもびっくりするくらい
親しげな笑顔になっていたと思う。
彼も私に気がついて、
親しげに笑った。

胸の中で何かがほころぶみたいに
しあわせのような気持ちになった。

会いたかった。

そう思った。

でも彼は、用が済むと
そのまま営業所へ帰ってしまい
また話すことはできなかった。

今度こそ、もう会うこともない。

それならば、営業所へ会いにいこうか。
何かしら用を作って。

会いたい。

ことある毎に彼を思い出していた。

あのやわらかな光のような
ずっと知っているような
あの雰囲気を何度も何度も
記憶が擦り切れてしまいそうに思い出していた。

知らない人を好きになるなんて、
今までなかったのに。

恋人に似ているのかもしれない 

July 30 [Sun], 2006, 23:07
袋詰め作業をしていたら、
aちゃんがやってきた。

aちゃんというのは、私の高校時代からのお友達で
今は結婚して、私のアパートから車で20分くらいのところに住んでいる。

私が休日出勤をしているのを知って、
見かねて手伝いに来てくれたのだ。

aちゃん、彼、私の3人でざくざくと作業をこなす。
3人がかりでやっていたら、
あっという間に作業が完了した。
ふたりにお礼を言う。

「あとは、当日まですみませんが
 ここで邪魔にならないところに置いて
 保管しておいてもらえますか?」
「いいですよ、奥の方に置いておきますから」
「今日はこれで上がります。
 手伝ってくれて、本当にどうもありがとう」
「おつかれさまでした」

なんてことない会話をして、お礼を言って
営業所を後にする。

aちゃんは、車で来ていたので送ってもらうことにした。
「わざわざ来てもらって、送ってくれるなんて
 なんか悪かったねえ」
「いいよいいよ。困った時はお互い様だから」
「ありがとう〜。お茶でもどお?」
「あ、ごめん。まだ家で仕事が残ってるんだ」
「そっかあ。残念」
「ていうかさ、さっきのあの男子、誰?」
「あの人は、営業所勤務のjさん」
「あの人、Tに似てたね。雰囲気とか、見た目とか」
「そお?」
「うん、気になったでしょ」
「…うん」
「やっぱりね」
「…似てるかなあ?
 似てるから気になったのかなあ」
「わかんないけど、私が見た時、
 あ、Tに似てるって思ったよ」
「そっかあ…残念」
「残念?」
「うん、Tさんに似てるから気になったんだとしたら
 私の中でTさんを忘れてないってことじゃん?」
「そうとも言うね」
「だからだよ」

胸にふれた光のようなもの。

あれは、幻だったのかな。
無意識に、私は、彼に、恋人を重ねていたのだろうか。
だとしたら、ちょっと彼に失礼だし
恋人にも失礼だし
私はちっとも恋人を忘れていないということになる。

ほんの少しの希望のように思えたものは
そのまま、しぼんでしまった。

車の中で、先程の彼を思い出していた。
でも、もう顔はうっすらとぼやけ始めていて、
たぶん、明日にはもう、思い出せはしないだろう。

ただ鮮明なのは、
胸に触れた、光のようなもの。
暖かで、やわらかで、光のような
彼の存在自体のカケラのような。

その感覚だけは、今も、鮮明に覚えている。

光のようなものに触れた 

July 30 [Sun], 2006, 21:05
彼と初めて会うことになる、その日。

その日もやはり、次週に控えた説明会の準備で
休日出勤をしていたのだった。
たくさんの資料。

資料として手渡すプリントを数種類
200部ずつ作成して、営業所へ運ぶ。
それが今日の目的。
営業所へはずいぶんと前に一度行ったきりで
知っている人もあまりいないし
場所もうろ覚えのようなところ。

とにかく両手がちぎれてしまいそうな
紙の束を持って、新宿にある本社を後にした。

何度も何度も、立ち止まって紙袋を下ろして
手のひらをさすった。
腕が抜けそうな程に痛い。
紙ってこんなに重かったんだ。

泣きそうになりながらやっとの思いで
営業所の前にたどり着いた。
夕焼け前だった空はもうとっくに暮れて
すっかりあたりは夜になってしまっていた。

「こんばんは」

奥から男性がひとりやってきた。
彼。
近づいてきた彼から何かが触れたんだ。
オーラ?
よくわからない。
でも、確かに、私の胸の真ん中の
ずっと奥の方に。
ふわっと触れた。
光のような、もやもやのやわらかなもの。

この人だ。

そう思った。
何が「この人」なのかわからないけれど
特別な何かを感じた。
彼の持っている、優しさが触れたように思えた。

「こんばんは」
「これ、本社からもってきたんだけど
 重くて手が千切れそう…」
「はい、かしてください」
「奥まで運んでもらっていいですか?」
「運びますよ」

感覚がなくなりそうな手から
ひょいと荷物を受け取って
軽々と奥へ行ってしまった。

「あれ、、ずいぶん重かったのに…」

すべての荷物を運んでもらったら
あとは、以前さくせいしたマニュアルとともに
袋詰めをする作業が残っていた。

黙々と作業をしていたら、
彼がやってきた。
「手伝います」
特に笑うでもなく
かと言って、無愛想というわけでもなく
私はそんな彼に不思議な感覚を抱いていた。

もうずっと一緒に、
近くの場所で、同じ空気を吸って
空間を共有していたような感覚。

彼が手伝ってくれた袋詰めを見たら
とりあえず突っ込んだような
少しガサツな入れ方になっていて
くすぐったいような
微笑ましい気持ちになったのを
今でもよく覚えている。

夜は少しだけ肌寒い3月の終わりに 

July 28 [Fri], 2006, 1:47
私が、
初めて彼に会ったのは
まだ夜は少しだけ肌寒い3月の終わりの事だった。

大きなプロジェクトをまかされていた私は
最後の段階の5つの市を集めた説明会を控えていて
毎日毎日その準備に追われていた。

平日も土日も同じように働いた。
プロジェクト以外にも小さな案件をいくつか抱えていて
ディレクターでありながら、
別の案件ではデザイナーでもあった。

仕事が嫌だと思ったことはなかった。
毎日が清々しく充実していたわけではないけれど
ほぼすべての感覚が麻痺していたのだろうと思う。

ワーカホリック。

友達は、私をそう呼んだ。
別段それに対して腹立たしくもなかったし
誇らしくもなかった。

他人が思うよりずっとキャパシティの小さな私は
すべてのtodoリストをメモ紙に箇条書きにして
常に何かに追われたような気持ちで
自分に「落ち着け。ひとつずつやればいい」と
言い聞かせていなければならなかった。

増えたり減ったりするリストを見ていると
時間は本当に光の速さで
どんどんと消費されていってしまう。

その頃の恋人とは音信不通だった。

それは、お互いに仕事が忙しく
思いやれなかった結果だ。
私は、恋人をそれでも愛していたし
音信不通を責めることもなかった。
私の精一杯の思いやりだった。

遠距離の音信不通は
もちろん、終わりを意味していた。

でも、このプロジェクトが終われば
そうすれば、恋人に会える。
そう信じて疑わなかった。
いや、疑わなかったと言ったら嘘になる。
認めたくなかったのだ。

だから、体を壊すと心配される程働いていても
その方が楽だった。
1年近くも続いていた音信不通に
本当は、心が痛かったのだ。
会いたかったし
さわりたかった。
時々、夢を見ては
自慰をしては
泣いた。

そんな頃だった。

彼に出会ったのは、
そんな疲れきった心をしまい込んで
ワーカホリックと呼ばれていた
夜はまだ少しだけ肌寒い
3月の終わりだった。

私は少し時期外れな
でもお気に入りの
まるで「黒いサンタクロース」のようなコートを着ていた。
P R
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