順之助とふみ 23

October 24 [Wed], 2012, 18:59
 三年前、痩せ浪人を切ったときは感じなかった。邪気が有るとき人は殺気を発する。木崎屋で盗賊を倒したときには感じるものがあった。あの時順之助は初めて悪人からは殺気が発せ荒れることを悟った。
 御門を出てから二人の後を密かに着ける者があった。だが未熟なふたりだ。その微かな殺気に気付くはずもなかった。

 非番の父親磯貝義衛門はそんなこととは知らず片手を火あぶりに翳して、書斎で書物に目を通していた。
「母上、ただいま戻りました。父上は」
「まだ書斎ですよ」
 振り向いた母の喜代は順之助がいつの間にか羽織袴に着替え、髭を当たり髷を結いなおしていることに目を丸くした。そして、これで眼鏡などかけていなければ弟の源四郎に劣らぬのだがと暢気に思った。
「父上、父上」
「何じゃ、騒々しい」
「父上、順之助は長崎に参りますぞ」
「いきなり長崎とは、どうしたのじゃ」
 義衛門はいつものように書物から目を離さずに返事した。
「阿蘭陀医術でこの目が治るか、自分で確かめて参ります」
 義衛門は驚いてやっと振り向いた。
「お奉行様が長崎への通行手形を用意してくださると言われました。そして、ふみ殿との養子縁組も心安くすると言われました」
「何、順之助。仲人も立てず、お前一人でお奉行に会いに行ったのか。常識も無い」
 愕然として頭を抱えた義衛門だった。後ろから付いて来た喜代は、眩暈を起こして、障子に手をかけずるずると廊下に座り込んだのだった。
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