You're Beautiful

February 16 [Mon], 2009, 1:57




※知念×木手10年後とかのお話です。そして短い。





中学の時に好きだった相手に会った。
本当にたまたま、たまたまの事で、俺は挨拶も出来なければその驚いた顔をにこやかな笑顔に変えることも出来ずに固まるしかなかった。
電車に乗って、何気なく前の席を見たら、居たんだ。
木手永四郎が。
口の奥が一瞬で乾くような感覚。下から湧き上がる突風に全身の毛を逆立てるように勢い良く血が流れる。
セピア色というにはまだまだ浅すぎる自分の思い出が一瞬にして甦り、俺は恥ずかしくなって寒くもないのに、顔をマフラーにうずめて隠した。
テニス部だった。永四郎(と呼ぶには少しばかりの抵抗がいる)とは全国を誓った部活仲間であり、そして何より俺の短い青春の中で思いを寄せていた相手でもある。
そんな永四郎と10年経ってまさかこんなところで会うなんて。
永四郎に気がついた俺とは対称に、永四郎は気がついていないようだった。
木手には俺達と同い年ぐらいの連れの男が居て、そちらの方へ顔を向けていたのだ。
永四郎がむやみに人間に話し掛けないことを俺は知っている。
むやみにおそろいの指輪を左手の薬指につけないことだって、俺は知っている。

「(あぁ……そうか)」

10年は長かった。
10年の間会わなかっただけで、永四郎は自分に正直になり、俺は自分に嘘をつき続けているのだ。
マフラーを直す振りをして、こっそりと永四郎を見た。
電車がガタガタと音を立てて次の停車駅を告げる。周りの人間が音楽を聴いたり、雑誌を読んでいるその雑踏の中で、一瞬だけ永四郎を見ようと思っただけなのに、まるで引き合わせたかのようなタイミングで俺の視線と永四郎の視線がカチリと絡み合った。
そこで名前を呼んでくれれば良かった。旧友を懐かしむように、喜んだ顔を見せてくれれば良かった。
永四郎は俺を見て、ゆっくりと微笑んだ。
とても綺麗な笑顔だった。
人を引き込むかのような、悪いけれども永四郎の隣にいる男が見たこともないような微笑だったと思う。
俺はただどうすることも出来ずにその笑顔を引きずって、同じようにマフラーの中に逃げ込むことしか出来ない。

好きだと伝えたことはなかった。
綺麗だと思ったことは何度もあった。
本当に綺麗だと思い、胸を焦がした。
あの頃の俺は、そんな気持ちを口から出したら高尚なものから低俗な言葉に成り代わってしまいそうで出来ないただの怖がりだった。
純粋な気持ちに勝る高尚などありえないのだと知ったのは、大人になってからだ。

車内放送で俺が降りる駅が告げられた。
その間、結局俺は一度も永四郎に視線を向けることもなく目を閉じていた。
不思議と、目を閉じている間は何も考えなかった。
ゆっくりと電車が速度を落とし、俺はポケットに突っ込んでいた切符を握りしめて立ち上がった。手は、思った以上に汗ばんでいたが、知らないふりをした。
永四郎は俺を見ていた。
怒っているような、哀しんでいるような目だった。黒い瞳がぎらぎらと怖いくらいに俺の姿を追いかけていた。
でも俺はそれすら気がつかないふりをする。
ドアが閉まれば全てが終わる。

君は本当に綺麗だ。
10年経った今も。
君はこれからもずっと正直に生きていくと良い。
俺はこれからも自分に嘘をついて生きていくよ。




君とは一緒に居られないんだから。





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木手君に夢中。
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