【ハーデス観光 株式会社(霊界ツーリスト)】5

August 23 [Sat], 2014, 6:41
5「第4ハーデス」

 部屋では違う女性が、機械の操作の女性と話していた。

その女性が「ここからガイドを務める高橋理恵と申します。
理恵と呼んで下さい。宜しくお願いいたします」

「こちらこそ宜しくお願いいたします」

「では、これから第4ハーデスに行きますが、ここからは人間の
粗雑な密度では入れません。ですから、私達の密度調整を行います。

深く、深呼吸を3回して下さい。ヘッドホンからパルスが出ますから
集中して下さい。では開始します」


ミツバチの羽音のようなブ〜〜という低い音がして、
頭が軽く痺れた感じがした。

次の瞬間、目の前が明るく光った。新見は眩しくて目を開けられず
そのままジッとしていた。

「新見様すぐ馴れますからそのまましててください。
落ち着いたら顔をゆっくり上げて下さい」

身体の痺れも薄れてきた。同時に至福感が襲ってきた。

新見は思わず泣けてきた。

横では理恵がじっとその様子を見ていた。

新見は、心の中で第3までとは雲泥の差。ここがもしかして
天国っていう世界?

理恵が「そうですよ一般的に言う天国とはここからの世界をいいます」

「えっ、私・・・声を出してないのになんで?」

「このハーデスは思いが全部伝わるんです。言葉の無い世界です」

「テレパシー?」

「そうです、人間のいうテレパシーと感度が全然違いますが。
紙芝居と液晶テレビの違いがあります。

このハーデスは言葉を使いません、そもそも言葉とは誤解を
生むからです。

皆さん集団で生活してますが、みんな同じ意識体の魂が集団を
形成してます。異分子的な存在はひとりもいません。
みんな気の合う中間です。

魂の本来あるべき姿です。

これから順に説明しますが、疑問が生じたら心に思って下さい」


ふたりは町並みを見学することにした。

瞬間小高い山にふたりは移動した。

ためらう新見を見て理恵は「ここからの移動手段はすべて思いなの、
思った瞬間移動してるの。

思いは形になる、人間界も同じ仕組みですけど。違うのは形になるまで
の時間です。人間界は形に表れるまで多少時間が掛かります。
ここでは思ったら即形になります。

邪悪なこと考える魂はここにはいませんけど邪悪も即形になります。
そして自分に返ってきます。ここは完璧に嘘偽りがないのです」

「言い方を変えれば時間がないって事?」

「そうです、学習が早いですね」

「ありがとうございます」

ふたりが見た町の景色は草木と建物が調和の取れたメルヘンの
ような町だった。

ひと言でいうなら、全体的に質素だけど完璧な安定感が感じられた。

理恵が「これが本来の姿です。人間界は無駄が多いの。
それが物質文明です。

何処かの集落に行ってみましょうか?私、お奨めの所があるの」

「はい、お任せします」

次の瞬間、集落が目に入った。

理恵が「行きます」

そこは小川が町の中心に流れ、一面が花に囲まれた集落だった。

向こうから女性がやってきた。

「今日は、また見学ですか?」

「はい」理恵が親しみを込めて言った。

新見は内心「本当だ、話してないのに思いが鮮明に伝わる」

「段々馴れてきましたね」

「ここはどんな町なんですか?」

「物を作る集落」

「物作りの集落?」

「今に解ります」

新見には人が半分透けて見えていた。

理恵はすかさず「今にハッキリ見えてきますから、
見えてきたらこのハーデスに馴染んできた証しです」

新見が「言葉が要らないって便利ですね」

目が馴れてくると色んなカラフルな服を着た人が作業をしていた。
どの顔も笑顔に見えた。

見ている新見も楽しさが伝わってきた。

「なんで全員笑顔なの?」新見が思った。

「楽しんでるの、何をやっても楽しいの。私達の世界ではポジテブ
だとかネガテブって表現するけど、ここは完璧なポジテブ世界。

でも本当は、ネガテブが無いからポジテブとい概念も無いの・・・」

「ストレスも?」

「当然」

「ここいいなぁ〜〜」

「空を見て」理恵が指さした。

新見は空を視た・・・???あれ??何か足りない??
あっ、太陽が無い??

「そう、太陽が無くても明るいの」

「どうして?」

「わたしもどうしてか解りませんけど」

「ファッションがみんな似てるけど理由があるの?」

「衣食住は人間の常識ですが、このハーデスはそういうものに
重点を置かないの・・・超越してるのね」

「やっぱり観念?」

「そう、ここも全体が観念で出来てるの」

「観念??」

「次の集落に行きます」

ここは大きな建物があり人間社会にも、どことなく似た感があった。

「そう、似てるでしょ。この第4ハーデスを似せて人間社会は造られてるから」

「どうして?」

「このハーデスで考えたことが人間界に投影されるからなの。
そしてここから多くのカルマを残した魂が、人間界に降りていくのです。
つまり人間界での誕生です」

「人間の魂はもともとここの人?」

「全部でないけれどそういうこと」

「一部は?」

「この上のハーデスから人間界に降ります。色んな役目を持って」

「上手くできてるのね」

「そう、この仕組みは完璧です。神の仕組みかもしれません」

「誰かと話ししてみたい」新見は思った。

「かしこまりました」

次に移動したのは大きな山の麓にある集落だった。

「ここは智の集落」

「智の集落?」

「小説や文学や知的なことを好む集落」

そこに女性がひとり歩いてきた。

「今日は」

ふたりも「今日は」返答した。

その女性が「ここに何をしにきました?」

理恵が「会話をしたくて」

「どうぞ。何を話しますか?」

新見が「私は新見です宜しく」

「あなたはこちらに来て間もない方?」

「どうして解る?」

「この世界は名前が無いから、名のる人は、人間界の習慣が
強いから癖で名のるのです」

「あなたは何をやってるのですか?」

「仕事は小説家です」

「どんな?」

「ホラー以外なら何でも」

「小説を書いて売るのですか?」

理恵が「ここはお金がないから売るという事はしない。
提供するだけ。お互いに提供し合うから不自由はない」

「そのとおりです」

新見が「わたし段々思い出してきた。この感覚知ってます」

理恵が「新見さん記憶蘇るの早いほうですよ」

新見が「この町見て回って良いですか」

「どうぞご自由に」

新見は「なんかこの空気感ワクワクしますね。身体の重さがない感じ・・・」

住人と理恵が笑った。

「何か私、可笑しいこと言いました?」

理恵が「もともと身体はありませんよ」

新見が「そうでしたね」

それから三人は町を丁寧に見学して、この町を後にした。

「理恵さんこっちの世界は良いですね。私も死んだらこられますか?」

「新見さんなら来られますよ」

二人の後ろから「あのうすみませんけど」語り掛けてくる
意識があった。二人は意識のする方を見た。

新見に「お姉さんはさっき私をここに来させてくれた人ですよね」

新見が「えっ・・・あの踏切の?」

「そうです、ありがとうございました」

その娘のうれしさが伝わってきた。本当に喜んでる。

私役に立ったのね。理恵も瞬時に事情が飲み込めた。

その娘が「わたしこの世界で勉強し直してまた、人間界で
先生として頑張ってみたいと思ってます」

新見と理恵が「頑張って下さい」

そう言ってその娘は消えていった。

理恵が「もうひとつ見に行きましょう」

瞬間大きいドームのが見えた。二人は入口から中に入った。

そこには大勢の人がモニターらしいものを見ながら意識を集中していた。

新見が「これは何に?」

「人間界に生まれるタイミングを伺ってるの。モニターの手前が
生まれるひとで、両脇にいるのがガイド役を務める人」

「こうやって生まれくるの・・・」

「人間界は表面意識が優先される世界なの、表面意識で表現して
生きるっていうことは結構大変なの。だからガイドが必要になるの」

「もしガイドがいなっかったら?」

「考えられないし、そういう例は視たことない」

「そんなに重要なんだ」

「最重要。因みに釈迦やキリストにもガイドが護っています」

「私のガイドは?」

「う〜〜ん、チベットの僧侶」

「・・・・」

「後ろにいるでしょ」

新見が後ろを意識した瞬間泣き出した。しばらく沈黙が続いた。

理恵が「どうでしたか第4ハーデスは?そろそろ時間だから第5にこのまま進みます。

第5ハーデスは人間意識を超越してます。分かりやすく云うと、
自然と叡智と調和言葉で表現すると制限があるから厄介だけど。
とにかく凛として全く揺るぎがない完成された世界です。

ここから又波動が変わります先程と同じく呼吸を整えて瞑想して下さい」

【ハーデス観光 株式会社(霊界ツーリスト)】4

August 22 [Fri], 2014, 6:02
4「第3ハーデス」

 「ここは人間界に似たハーデスです。但し、嘘偽りがありません、
というか通用しません。思ったら即形になるからです。

例えば、新見さんがこの高橋を悪く思った瞬間、
その思いは顔に表れます。

人間界と大きく違うのは、時間の存在というか時の概念がありません。

ここのハーデスの特徴は物への執着が強いこと。
そして無神論者が多いのも特徴。

無神論が悪いという訳ではありませんが、物に執着するのは
もっと障害になります。
物というのは同時に金銭も含まれます。では、町に出てみましょう」


二人は町を歩いた。

「今までと違って明るいですね」新見が言った。

「そうですハーデスが上になるに従って明るく空気もすんできます。
でもここは下からまだ3番目の世界。もっともっと上は綺麗で
楽しいですよ」

二人が歩いていると前から犬が歩いてきた。

「お姉さん達何処から来たの?」犬が話しかけてきた。

「人間界から来たの」高橋が応えた。

「私も行きたいな、人間界に」

「どうぞ人間界に生まれて下さいな」

「解った、今度人間界に行く。じゃあね」

犬はそのまま歩き去っていった。

新見が「私、初めて犬の話しを聞きました。なんか、
不思議な感覚ですね」

「猫も可愛いわよ。意識は猫の方が上かも」


 二人は大通りを歩いた。町は所狭しと看板が乱立していた。

高橋が「凄い看板の数でしょ。ここはね、商いが優先されるからなの。
芸術など精神面は全然重視しないの。物を所持する量が社会的地位も上。
その辺私達の社会と似てるかもね」

道を歩いている老人に声を掛けられた。

「お姉さん達。これ安くしておくから買ってくれない?」

差し出したのが革製のバックだった。

高橋が「お爺さん今お金持ってないのよゴメンね・・・」

「駄目だよ、金ぐらい持って歩かんと、何があるか解らねえぞ・・・
しょうもねぇ」

社長が「あの爺さん何時もああしてバック持ってうろついてるのよ。
うちの従業員は毎回声かけられるの、有名な爺さんで、
お金沢山あるらしいわよ。『この世は金だ』って言うのが口癖らしい。

この類が多いのもここの特徴。人間界にも多いけど、
ここのハーデスはデォルメされてるから如実に顔に出てるの。

そして、みんな持ち物だとか身だしなみを観察するの。
金もってるかどうかってね。

だからさっきみたいに金のあるなしで人間を簡単に判断するの。
その辺も何処かの世界と似てるでしょ」

町を歩いているとまた声を掛けられた。

「すみませんけどお金恵んで下さい、この子に薬を買ってあげたいの」

その女性の左腕には、左手首のない子供が抱かさっていた。

高橋は「ごめんね今日お金持ってないのよ」

その母親は「ちぇっ、貧乏人が・・・」捨て台詞を吐いて立ち去った。

「今のはね、母親自ら子供の手を切断したケースなの・・・
お金のために我が子を」

「本当ですか?そんなこと出来るんですか?」

「もう少し歩いてごらん道路の至る所からああいう人達が出てくるよ」

「でも、あの人達この町の住人に顔が知られてるから、
お金もらえなくなるのでは?」

「それが大丈夫なの。新しくこの世界に来る魂が多いからちゃんと
食べていけるの。新見さんも声かけられたでしょ」

「拝金主義って凄いですね」新見は淋しそうな目をして呟いた。

「心が伴わないってこういう事なの・・・」

「で、お金等を蓄えて結局何をどうしたいのでしょうか?」

「たぶん、そんなこと考えてないと思うよ、お金を蓄えることが
生き甲斐というか・・・さっきも言ったように未来の展望なんて
ないの・・・今お金が入ればそれで良いの。それが目的なのよ」

「じゃあ、稼いだお金をどう使おうとか、役立てようとかない?」

「それは人間の話よ。何度も言うようだけどここは、時間がないから
先の展望がないの。とりあえず目先のお金、物、オンリー・・・」

「やっぱり人間の方が少しは上ですね」

「まっ、上といえば上かもね・・・似たような人も多いけど」


二人は公園に移動した。

新見が「ここにも動物がいるんですね・・・」

「基本どのハーデスにもいるけど、観念だからね。新見さんが
公園は鳥が付きものだという観念があるからそう見えるの」

「他の人には見えてないの?」

「そういうことです・・・」

「このハーデスを出たら、少し休憩に入りますら、次からの
ハーデスは楽しいですよ。

帰りたくないというお客様も沢山います。楽しみにして下さい。
もう少し欲得の第三ハーデスを歩いてみましょうか」

「はい、」


二人は公園を抜けて、買物公園のような商店街を探索した。

新見が「あっあれ・・・」

高校生くらいの制服を着た女の子が、電車が通る踏切を潜り
電車に向って歩き出した。

新見は咄嗟にそれを止めようと踏切を潜った「あんた何やってるのよ」
そう云って腕を引っ張ってその娘を避難させようとしたが。

女の子は簡単に新見の手をふりほどいた。

その刹那だった、今度は高橋が女の子の脇を押さえ、
何かの武道のような技を掛けて、踏切の外に連れ出した。

間一髪だった。

それを観ていた野次馬が「おい姉ちゃん達折角死にたがってる子に
何するんだ。よけいな真似しくさって・・・いいもの見損なったぜ。
馬鹿もんが」

その罵声は数人におよんだ。

高橋が「とりあえず移動しようよ」

3人は商店街から逃げ去った。

今通ってきた小さな公園のベンチにその娘を座らせた。

その娘は「死なせて下さい・・・」

新見が「あんたねぇ・・・???あれっ?」

高橋が「失恋かい?」

「・・・・・死なせて」

高橋は「あのね、死ぬこと以外の方法は無いのかい?」

「・・・死にたいです」

「じゃぁ、言うけど、あんたはもうとっくに死んでるんだよ」

「私はこうして生きてますけど」怪訝な顔をしていった。

「なんで死にたいの?」

「お母さんとお父さんが離婚して、私ひとりのこして出て行ったの。
お金無いから万引きしてたけど。
帰ったら警察が家の前にいて・・・で・・逃げてるの・・・」

高橋は「良くそこまで思い出したね・・あんた凄いよ。
ハッキリ言うけどお姉ちゃんはあの踏切で何時頃か解らないけど
死んだんだ。死んで魂だけこの世界に残ったんだ。
まだ生きてると勘違いしてるんだよ」

新見は涙を浮かべながら「そうです・・・」小さく呟いた。

「ねぇ??目にあるそれって水?・・・もしかして涙ってやつ?」

高橋が「そう、このお姉さんがあなたのために流してる涙・・・」

このハーデスでは、他人のために涙を流すという行為は無かった。

「もしかして・・・私の為に・・・?」

「うん」高橋がいった。

次の瞬間だった、その娘の顔色が段々と赤みがさしてきた。

高橋が「右後ろ視てごらん?」

女の子は右後ろを振り返った。

視線の先には男性の人影のようなものが輝いて視えた。

瞬間女の子は胸が熱くなり本人も輝きだしてきた。

横でその男性は、二人に深く頭を下げて「ありがとうございます。
これから先は私がこの子を案内いたします」

次の瞬間二人は姿を消した。


新見が「あの〜〜」

「解説でしょ。解ってます。あの娘は、ずっと1人だったのよ、
こっちでも、あっちでも、いつもああやって電車に飛び込むことを
繰り返しているの。実際に人間世界でああやって死んだの。

今回も同じ事したの。そこに新見さんが飛び込んできたの。

このハーデスでは、そんな他人を助ける行為する人はいないから
ビックリしたのよ。

そして、あの娘は気が動転したの。と同時に新見さんの愛みたいな
ものを感じ取ったのね。そしたら胸が熱くなり同時に心を開いたの、
いつも心配して側に着いていたガイドの存在も解ったの。

早い話が成仏したって言うことよ。新見さんの行為で・・・以上」

「成仏ってあんな感じなんですか?」

「それは、人それぞれです」

「ハーデス観光の皆さんも、成仏のお手伝いされるんですか?」

「ケースバイケースね、側に着いてるガイドでも難儀してるのに、
私達が急にポンと行って上手くいかないの。酷なようだけど」

「もうひとつ言っておきます。第3までのハーデスは人間の時の
行ないがそのままハーデスに反映されてるの。

だから、死んだ時の意識や、生前の意識がハーデスの行き先を
決定するの。全ては自分で決めてます。完璧に」

新見は高橋の言葉に、強い説得力を感じた。

高橋が続けた「良い体験したのよ。成仏する瞬間なんて私達でも滅多に、
お目にかかれません。貴重な体験です。

さあここからは人間より上のハーデス、当然人気ハーデスです。

最初は第1から体験してもらったのは、ここから上のハーデスを
本当の意味で楽しんでもらうため。美味しい食べ物は最後に。

第4から楽しみにして下さい。

ここで、30分ほど休憩を取りたいと思います。先程渡した
コマを回して下さい」

新見はコマを回した、やがて傾きだした。

同時にヘッドホンを付けた自分に戻った。

水上が「新見様お疲れ様でした。ヘッドホンを外して楽にして下さい。
トイレなどの用を足して下さいね。30分後に再会します。

それと添乗員を変えても面白いですよ。どうなさいますか?
考えておいて下さい」


新見は視てきたことを出来るだけ克明に書きつづった。

世の中にこんな次元を越える装置の存在があるなんて・・・
夢うつつのようにさえ感じた。

同時に第4ハーデス以降への期待感と好奇心で胸がワクワクしていた。

【ハーデス観光 株式会社(霊界ツーリスト)】3

August 21 [Thu], 2014, 5:49
3「第2ハーデス」

 二人はさっきと同様にビルの一室に移動していた。

「はい着きました。ここは第1ハーデスと違い、個人意識優先の世界です。
欲の世界とでも言いましょうか、自分の欲望のためには手段を選びません。

ただ他人に危害を加えないところが、先程の世界との大きな違いです。
それを頭に入れて、また表に出てみましょう」


二人は大通りを歩き始めた。

さっきの世界と違いここは異臭も少なく、空気感も違っていた。

「さっきと違いますね・・・」

「はい、違いに気付きましたか?ここにはさっきのように
危害を加えようとする人間はおりませんので、少しは安全ですが、
ここもハーデスでは下に位置する世界です。油断しないで下さい。

自分中心の第2ハーデスは他人に危害を加えることはなくても
間接的に危害が加わることは当たり前にあります。

それと精神患者さんや自殺願望者もこの世界には多いですから」

二人が歩いていると、ブツブツ言いながら歩いてくる青年が目に入った。
その青年の顔は青白くやせ細り、目は宙を見ていた。

そこをセダンタイプの車が横切ろうとしたその瞬間だった。

その青年は急に車の前に飛びだし、フロント部分に激突した。
一瞬の出来事だった。

車の運転手は出て来て「わ〜〜どうしよう・・・俺、悪くねえから・・・
こいつが・・こいつが勝手に飛び出してきやがった。悪いのはこいつ・・・」

そう言い終えると運転手はそのまま車を運転して立ち去った。

その様子を見ていた新見が、倒れた青年の元に歩み寄ろうとした瞬間、
腕を捕まれ止まった。

それは高橋の手だった。

「チョット待って、視てごらん・・・」

その青年はしばらくすると起き上がり、また何やらブツブツ言いながら歩き出した。

「どういう事ですか?」

「肉体が無いから当然なの。私達の世界では死は肉体の
死を意味するけど、ハーデスでは肉体が無いから死も存在しない。

あの青年はそのことを知らないから、何度でも死を繰り返すの。
でも結局は死ねない。ず〜〜っとあの調子。

あの運転手は生前も人を轢き殺しています。
でも、轢いたのは自分のせいじゃないと思い込んでるの。

さっき見たようにね。ひとつの事だけで頭がいっぱいなのよ、第2ハーデスの人間は。

二人は足を進めた。

「ここはデパートみたいだけど・・・中がどうなってるか見てみたい」

「わかりました、入ってみましょうね」

二人は星雷百貨店というデパートに入った。入口を入って
すぐに、化粧品と高級バックと思われるコーナーが目に入った。

新見は陳列しているバックを手にとって眺め、

思わず小声で叫んだ「何これ??レザーって表示なのに
これビニールじゃない?・・・これも有りなの?」

高橋が「さっきの話し、思い出して下さい」

新見はさっき???そういえばこのハーデスは自分さえ
よければ・・・なるほど・・・こういうことね。

「にしても星雲百貨店でもこんな事するんだ・・・」新見は呟いた。

「星雲百貨店って書いてませんよ」

「そんなこと無いですよ、私ちゃんと看板、確認したんですから」
新見は語気を強く言った。

「じゃぁチョット表に出てみましょうか?」

そう言った瞬間、二人はさっき来たところに立って上を見上げた。

高橋が「よ〜〜く見て下さいね」

新見は字を確認した「あっ???星雷百貨店って書いてる。
曇っていう字と、雷っていう字と読み違いなの?これじゃぁ詐欺みたいなものでしょ」

「わかっていただけましたか?第2ハーデスの自分さえ良ければという意味が・・・」

「わかりました。まさか建物ごとこんな手の込んだことをするとは・・
第2ハーデスも恐るべし・・・」

「もう少し売り場を覗いてみましょうか?」

「ええ、面白そう。お願いします」

続いて寄ったのが婦人服売り場だった。

新見が見る限り、若干流行というかデザインが古くさい感じがするけど、
自分の世界でもそれは当たり前にあり得ることだから・・と思った。

「ここは当たり前に売ってますね」

「そう見えますか?チョット私の後ろについてきて下さい」

高橋は店員を呼びつけた。

「すみませ〜〜ん。このブラウス、おいくらですか?」

「はい」

高橋の姿を上から下までじっくり見て店員が言った。

「これは、20万円です」

「あっ、そう。ずいぶん高いのね?」

すかさず店員が「昨日までは25万円だったのよ。今日はセール
だから5万円引きなの・・・」

「う〜〜ん、やっぱり止めます」

「オバサン!いったいいくらなら買うのよ?」態度と声が豹変した。

「5千円ってとこね」

「オバサンもしかして、私に喧嘩売ってるのかい?」

「いえ、この位の物なら5千円が妥当・・って思ったのよ」

「そっかい、オバサンは目が肥えてるね。わかった、じゃあ5千円でいいよ、持ってきな」

「やっぱり、いらないわ」

「な〜〜に〜〜。オバサンひやかしか?」

「違うけど、あなたが客に向ってオバサンと言ったその態度が気にいらないのよ」

店員は急に態度をひるがえし「お姉様、すいませんでした。
私、これ売らないとクビになるのよね。買ってよ・・・」

「もう、結構です」高橋は歩き出した。

「なんだい、糞ババァが!」店員は捨て台詞を吐いた。

「この世界も凄いですね」

「あの人達はあれで必死なんですよ。私達は広い視野の
世界から視てるからお見通しだけど、あの人達には死活問題なの。
ちょっと悪いことしたかしらね?」

それから二人はまた歩き出した。

「他に何処か興味のある場所、ありませんか?」

「雑誌社に興味あるけど・・入室許可書ないし〜」

「わかりました。ついてきて下さい」

二人はミルキー出版と書いたビルの下に着いた。

「付いてきて下さい」高橋が言った。

「ごめん下さい」

受付にいる年齢不詳の女性に「すみません、こちらの編集部に
用事があって来たんですが」

「はい、なんの編集部ですか?」

咄嗟に新見が「服飾関係です」

「はい、あなた達の名前は?」

高橋が「高橋と新見です」

「で、用件は何さ?」

高橋が、この受付、私達をからかってる・・・どうもこのままでは
通したくないみたいだけど・・高橋は財布から紙を出し、その
受付に握らせた。

受付は「少々お待ち下さい」

その後、受話器を上げ何か小声で話していた。

「高橋様、この交通証をお持ち下さい。何か聞かれても、
受付の村田から聞いたと言わないでよ。エレベーターを4階で降りて
正面にあります」

「やっぱりここもお金なんですね・・」

「だから、考えようによっては単純で便利なんです」

案内されたのは小さな応接間だった。

「いらっしゃい。あんた達かい?用事って。いったい何が聞きたいわけ?」

高飛車な態度だった。

新見が「今年の冬、どういうファッションが流行るのか、お聞きしたいのですが」 
「なんで僕が君達にレクチャーしないといけないわけ?
なんの義務があるわけ?」

高橋が「これ気持ちなんですけど、受け取ってやって下さい」

例のごとくそっと手渡した。

「まっ・・・教えないわけではないけど、僕から聞いたって言わないでよ。
企業秘密なんだから。僕は独り言をいうからね、聞こえたらゴメン」

1時間ほどでその独り言は終わり、二人はビルを後にした。

さっきの受付は「またいつでもどうぞ。待ってま〜〜〜す」と妙にハイテンションだった。

「社長さん、さっきの独り言、全部嘘ですよ。たぶん2〜3年前の流行だと思います。
ハーデスには時間感覚がないから、ハッキリしませんけど」

「同じ第2ハーデスでも、ここはまだマシな方なのよ。
チョット面白い物見せてあげるから、私の手を握って」


次に訪れたのは、体育館のように大きな仏教風の建物だった。

正面には「大日教」という大きな看板が掲げられていた。

中にはいると千人近くの人間がいた。

幾つかのグループに分かれ、それぞれ講師らしき人間がホワイト
ボードに何かを書きながら、50名ほどの集団に話しかけている。

二人は、そっとひとつの集団を無作為に選び、講義を受けた。

その講師は「我が宗派が唯一絶対の真理を説いています。
馬で言うならば他宗は馬の足だったり、シッポだったりと
もっともらしい教義を唱えますが、我が『大日教』は、
馬全体の教えです。だから完成度が違います。

いいですか?ここを強調するんですよ。

そしてこの『大日教』と書いた掛け軸は尊師様直筆で
魂が籠っておられます。疎かにすると天罰が下ります。
いいですか?天罰ですよ、天罰。そこも強調して下さいね。

最低でもひとり100名の会員を集めましょう。

達成された方は、私のように人の上に立ち、講義をやってもらいます。
そしてそれを聞いた人達が、またどんどん入会者を増やす。

それが功徳となり、幸せが何倍にもなって我が身に返ってくるのです。

こんな尊い宗教は他にありません。

どうぞ、みなさんも精進して会員を増やし、良いところに生まれ変わり、
また一緒に『大日教』で頑張りましょう。ご静聴感謝します」

大勢の拍手がひしめいた。

「これがかの有名な大日教の信者が亡くなってから来る世界なの。
当然、信者全員がここに来るわけではないけど、私の知る限り           
ここに来る信者、結構多いのよ。
そして、その事に全然気付いていないの。宗教って怖いでしょ?
ここも視界の狭い世界だから、他のこと考える余裕がないの」

「変な宗教に偏らなくって良かった」

「この世界はこんな感じです。他は気になるところはありませんか?」

「もう、ここも結構です」

「承知いたしました。私の手を握って下さい」

【ハーデス観光 株式会社(霊界ツーリスト)】2

August 20 [Wed], 2014, 8:20
2「第1ハーデス」

二人はあるビルの一室に座っていた。

「新見さん目を開けれますか〜」社長の声だった。

「はい」

「ゆっくり起き上がって下さいね。第1ハーデスに尽きました。
もう一度説明します」

部屋の様子を伺いながら「あっ・・はい、お願いします・・・」

新見は既に身体に脱力感を覚え、どことなくイライラしていた。

「ここはズバリ地獄と呼ばれるハーデス。
人の物を奪う、殺す、平気で嘘をつく、などなど、
当たり前の世界です。

それと、全てのハーデスの人には死がありませんので
殺人で殺されたように見えますが、また動き出しますから、
気にとめないで下さい。とにかくここはどん底の世界です。

私と二人で歩きましょう。できるだけ私から離れないように
歩いて下さいね。

では、ビルの表に出ましょうか?私についてきて下さい」

二人は外に出た。

瞬間、異臭が鼻をついた。外は薄暗く、重く濁った空気感。

高橋は「何度来てもこのハーデスは臭うの・・・でもこれがだんだん
慣れてくるのよね。こちらが地獄に馴染んでくるの」

新見は思わず「臭いッ・・・」声が出てしまった。

そこに後ろから老婆が声を掛けてきた。

「あんた達、見慣れない顔だけどよそもんかい?」

新見は声の主を視て唖然とした。

その老婆は顔の肉が半分そげ落ち、目も片方が垂れ下がり
口は下の唇が垂れ下がり、全体的にどす黒い皮膚が痛々しく感じた。

その時高橋が「あまり凝視しないでね・・・」

新見は一瞬我を忘れるところだった。

二人はそのまま大通りに出て町を歩いた。

「ここが第1ハーデス、一般的に地獄と呼ばれる世界。
このどんよりとした空気、獣のような悪臭、全体が夕方か夜のような暗さ。
でも、そのうち感覚が馴れてきます。このハーデスに同調してくるの。
魂はどんな環境にも同調しようとするのね。どういう訳か調和が基本なの」

「こんな世界でも調和できるんですか?」

「今に解りますよ。コマは何時でも回せるようにして下さい。
では、繁華街らしき所に行きましょう。さっき云ったように目を
出来るだけ合わせないようにして下さい」

二人は歩き出した。

道路にはゴミが所狭しと散らかり、路上で座って呟いている子供もいた。

「おい、姉さん達何処行くんだね?」

横から老婆の声がしたので新見は声の方向を視た。一瞬新見は声を失った。
声の主は一見綺麗に着飾った若い女だった。声の印象からすると
老婆のようなかすれた声だったからだった。

「散歩ですけど・・・」

「ほ〜〜う、良いご身分だね・・・あんたの服、綺麗だね・・
あんたも私達と同じ仕事しないかい・・・稼げるよ。

な〜〜に、ただ男と寝てやるだけでいいのさ」

新見が「いえ、私達は結構です。失礼します」


「ちょい、待ちな・・・私が稼げるようにしてあげるって
言ってるだろうが・・・何か文句あるのかい?」

「いえ、ですから・・・」

新見の話の途中で高橋が遮った。

「姉さん、ごめんね。こいつここに来たばっかで、
何にも解っちゃいないんだよ。これとっといて」

高橋はお金らしき物を、そっと女に掴ませた。

「そうかい、解ったよ。気が変わったら何時でもおいで。
この辺にたむろしてるからさ」

高橋が「はい、その時には姉さんを頼りますんで失礼します」

二人はその場から離れた。

「何なんですか?あの人は?」

「新見さん、これが第1ハーデスなんです。ここではあれが
当たり前の世界で、あれはまだ良い方です」

「あれが良い方なんですか?高橋さんが彼女に渡したあの
紙はお金ですか?」

「そう、ただの紙だけどね。あの人にはお金に映って見えるの。
地獄の沙汰も金次第っていう言葉は本当なんですよ」

二人はまた歩き始めた。その時パンと何かが弾く音がした。

「今の音は何ですか?」

「うん、あれは拳銃ね。ここでは普通の出来事なんです。
こちらでもヤクザの抗争をやってるの。彼らは死んでも死んだ
自覚がないの。だからああやって毎日毎日抗争をやってるのよ。
毎回死んでるの。何年も何十年も毎日毎日その繰り返し。

あれ、あの男視てごらんなさい、今拳銃で撃たれるわよ。
そして1回は死ぬの。しばらくすると起き上がってまた抗争
しはじめるの。私の視る限り何年もああやって繰り返してるわよ」

「死んで、また生き返るんですか?」

「言ったでしょ、ハーデスは観念の世界で肉体がないの。
時間が無いから何時も今なのよ。本人が気付くまで続くの」

「何回も何回も撃たれるんですか?」

「そう、何回も何回も気が付くまで続くのよ。因みにあの男は私が
最初に視たのが、人間時間で8年前だった。今だにああしてるのよ。

私、あの人と話したことあったんだけど、あの人が生きてるのは
明治の終り頃なの。だから今でも明治だと思ってるの」

「明治???」

「そう、新見さんの感覚だと時間は直線だという意識ですが、
ハーデスは時間という概念がない世界なんです。

新見さんが考えてる一本の直線としての時間軸というのは、本当は今の
地球だけの常識で、実は毛糸玉のように絡まってるの。

昨日と10年前が隣り合わせになってる、それが時間軸が
無いハーデスの感覚なの。

明治のヤクザ間の抗争がいまだに続いている理由です」

「何か時間って頼りないんですね・・・」

「頼りないというか、本来、時間は無いと言った方が正解です。
今の新見さんが住む地球だけに
時間の存在があるんです。

月と太陽が時間というものを作りだしたのかもしれませんね。
因みに次元が上のハーデスでは、月は用を足してません。
夜が存在しないから」

「もう少し歩いてみたいです」


「はい、かしこまりました。じゃあ行きましょう」

二人は通りをさらにすすんだ。

「あれは何ですか?」

指さす方向には、一人の男を中心に大きな円陣を組む集団があった。

「ああ、あれは詐欺集団の打合せです。あの中心の男がボスで、
周りが子分なの。スリの手ほどきをしてるのよ」

「あんなに公然とやってるんですか?」

「それがこのハーデスの面白いところなの。彼らはこちらが
目に入ってないのよ。遠くを見るという視界を持ち合わせてないの。
目の前のことしか考えてないから、遠くは見えてないの。

視界というのは心の広さも関係してるのよ。目先のことばかり
という言葉があるでしょ?まさに書いて字のごとし。

だからあの集団はこちらを視るという作業が出来ないの。
本当は見えるのよ、自分で見えなくしてるだけなの。
ハーデスの世界って面白いでしょ?」

「本当ですね。心の在り方ってハーデスの世界でも重要なんですね」

「重要というか最重要です。行ないについては今度生まれる時に
カルマという形で補えるけど、心の在り方は今しかないの」

「高橋社長、詳しいですね」

「何年もハーデスやってると黙ってても身につくのよ。
もう少し歩いてみましょう」

「このハーデスって警察は存在するのかしら?」

「良い質問ね、あるわよ・・・覗いてみる?」

次の瞬間、違う町に変わっていた。

「正面にあるあれが警察よ」

「あっ!本当だ、警察署だ。どういう事取り締まるのかしら?」

署の中から二人の人相の悪い警官が出て来た。

そこに、ひとりの老婆が現われ警官と会話をしてたと思った瞬間、
ひとりの警官が声を張り上げ「馬鹿言ってんじゃねぇぞ、
この糞ババァが・・・」そう言い終らないうちに足で
老婆を蹴ってしまった。

新見は咄嗟に「あっ、危ない」と言ってしまった。

もうひとりの警官が気づき、新見の方に向ってきた。

「おい、お前・・・今なんて言った?もう一度言ってみろ」

「危ないって言いましたけど」

「ほ〜〜う、誰に向って言ったんだ?・・・えっ・・こ〜ら」
警官は威圧してきた。

そこで高橋は「何時もすいませんね・・この女、まだこの世界
馴れてないんです。

今日の所はこれで旨いもの食って下さい。私から言って
聞かせますから。すいません」

高橋はまた紙を警官にそっと渡した。

「おう、あんたツアー会社の社長さんだったな・・・いつも、
出来の悪い観光客相手に大変だな。まっ、頑張れよ」

そう言って二人の警官は何事もなかったように立ち去った。

「もうひとつ教えておきます。このハーデスの存在は他人に情を掛ける、
愛情を掛ける、助けるということが無いんです。
だからこのハーデスに居るんです」

新見はなんとなく理解できた。

と同時に、人間界はここと比べると良い世界だと痛感した。

また歩き出すと新見が「社長さんよ、来た時と違って段々と
臭いが消えてきません?目も幾分馴れてきたみたいだけど」

「新見さんがこのハーデスに馴れてきてるんですよ。
あそこの鏡を見て下さい」

建物の曇ったミラーガラスに自分の姿を映してみた。

そこに映っていた自分の姿は変貌していた。目が見開き気味で
自分でもその様相に愕然とした。

「いったいこれはどういう事だ、おい社長さんよ、
ちゃんと説明しなさいよね・・・あんたに責任取れるのかい?」

新見の意識も第1ハーデスに同調し始めていた。

「解りました。責任取りましょう・・・」

そう言って例のコマを取り出し「これと同じ物が
新見さんのポケットに入ってるので、出して回して下さい。
そうしてくれたら私が責任をとりますから」

新見はなにかブツブツ言いながらコマを回した。

コマは回り続け、全然勢いに変化が現われなかった。

それを視ていた新見は、ふと・・・これはハーデス世界だ・・
自分の立場が瞬時に理解できた。

その様子をみた高橋は新見の手を握り、最初に来た部屋に移動した。

「新見様、これで第1ハーデスは終了いたします。
続きまして第2ハーデスにこのまま移動します。

目を閉じリラックスして下さい」

【ハーデス観光 株式会社(霊界ツーリスト)】1

August 19 [Tue], 2014, 6:32
1「ハーデス観光株式会社」

 ツアー雑誌MOMOの記者新見がハーデス観光の取材で訪ねた。

「まず、社長さんの名前を教えていただけますか?」

「はい、私はハーデス観光代表取締役の高橋明美と申します」

「早速ですがハーデス観光さんのハーデスとは何を
表わしてますか?」

「ハーデスとは、黄泉の国・冥土。つまり霊界ですね」

新見が首を傾げて「黄泉の国・冥土・・それは、どういう事ですか?
具体的にお話し下さい」

「その名のとおり、霊界の観光が当社のツアー商品です。
霊界とは死んだ後に逝く世界をいいます。

本当は、あの世が実存の世界で、この世は仮りの世界なんです。

その霊界は多数の世界が存在します。

簡単に申しますと、地獄絵図のような世界から宇宙を創造した存在まで。
この世もある意味、その一部ですが。

私を含め当社スタッフが解りやすくするために、何度か霊界に足を運び、
大きく7つのハーデスに分けました。

つまり、宇宙を下から上に7つのハーデスに分けたのです。

詳細はホームページにも書いてありますが、簡単に説明いたします。

まずハーデスには時間という概念が存在しません。
どんなレベルのハーデスにも時間が無いのです。
思いが即、形になります。

そこが一般的に霊界と呼ばれる世界と、今私たちの住むこの世との
大きな違いです。

「例えば?」

「現世では想像が形になるまで一定の時間差が生じます。
ところがハーデスでは、思うと同時に形になるんです。
つまり、誤魔化しが一切通用しない世界です。理解できますか?」

「それって、邪悪なことを思うとすぐ形になるという事ですか?」

「理解が早いですね。その通りです。では、順に説明いたします。

第1から始めます。

第1ハーデス
これは、俗に云う地獄のハーデス。
他人の物を奪い、傷つけ、自分を優位に立たせることしか
考えていない修羅場の世界を云います。欲望のためには手段を選ばない、
欲望丸出しの地獄世界です。人だけでなく当然、町や建物全てが歪です。

第2ハーデス
これは、自我優先のハーデス。
自分のことしか考えていない個人優先の世界。自殺者や金や地位、
名誉といった個人のことだけが優先される世界です。
第1ハーデスと似ていますが、根本が個人優先主義なので、
直接他人に危害を加えないところが第1との大きな違いです。
でも、間接的危害を及ぼす事はあります。


第3ハーデス
ここは人間界に最も似ている霊界で、我々の住む物質世界的な
要因の強いハーデス。但し、物を中心に思考します。
人間界と大きく違うのはそこです。思いやりは欠損してます。
物欲界という表現を我々は使います。


第4ハーデス
ここは、自分の意識の合う者同士が集団を作って生活してます。
この世で、たとえ親子や夫婦であっても意識が違うと
一緒に生活しません。生活する集団が個々に違います。

何故なら自分の意識が合った場所、そこが一番落ち着くからです。 
人間界は意識が違っても自分の思いをを押し殺したりして関係を保ちます。
このハーデスは魂のレベルのあった者同士が一緒に住まう世界です。
人間界より素晴らしい世界です。簡単に表現するなら、与え合う世界。

余談ですが、本当は魂にレベルなんてのはありません。私どもが
便宜上、わかりやすく使ってるだけです。誤解しないで下さい。


第5ハーデス
ここは、俗に云う神界と呼ばれるハーデスで、神々と呼ばれる
存在が住まう世界です。

人間の特に日本人のいう神とニュアンスは少し違います。
これは集団意識の違いになるので説明は避けますが、仏教で云うなら
菩薩界に相当します。


第6ハーデス
ここは、全ての調和。宇宙意識のハーデスです。
人間的な意識はもうここにはありません。当然、善悪など相対する
意識も一切無く、仏教で表現するなら空の世界観、もしくは如来界
でしょうか・・・私のレベルでは上手く表現できないハーデスです。


第7ハーデス
ここは、宇宙そのもの、あるいは宇宙を作った存在かもしれません。
創造主でしょうか・・・言葉にするとどうしても私の意識制限が
あり、恥ずかしい話し、宇宙観が小さくなってしまうので、
非常に説明が難しいです。それほど表現が難しいのがこの
第7ハーデスです。

以上、私どもが作成した7つのハーデスです。
解っていただけましたか?ご質問があればどうぞ」


「実際に社長さんも視てきたんですか?」

「当然です。私の考案した装置ですから」

「それはどのような装置なんですか?」

「我が社が開発した装置で強制的に体外離脱して、各ハーデスを
旅するんです。必ず馴れた社員が添乗いたします」

「それって、既に市販されているヘミ進化という装置とは
違うんですか?」

「違います。ヘミ進化装置は自分が体外離脱して霊界を視てくる
と云う商品で、どちらかというと客観的に視てくるというものです。
3D映画を見ている感覚に近いかも知れません。

それに誰でも体外離脱出来るという保証もありません。
我が社のハーデスとはリアル感が全く違います」

「ハーデスは誰でも体感出来るんですか?」

「今のところ100%出来ます。万一出来ない場合は
お代は頂きません。

客観視が他社なら主観的感覚が当社。両者を経験するとその
違いが解ります。

当然、当社は説明したように馴れた者が添乗します。
万一の場合は添乗員が責任を持って誘導します。
因みに今まで一度も事故はありません」

「料金はいかほどなんでしょうか?」

「1〜6ハーデス、ワンセットでで60万円。
1ハーデス1時間で計6時間。途中、休憩を挟みます。
オプションは1ハーデス、15万円です」

「オプションもあるんですか?」

「例えば、死んだ母親のハーデスを視てくるとか、
尊敬するマイケルやジョンに会うとか、その他諸々あります。
すべて1ハーデス15万円です。

但し、6ハーデスに組み込むことも出来ます。例えば、第1ハーデス
を体験しないでその代わりに死んだ父親が住んでいるハーデスを
加え6ハーデスにするというものです」

「チョイスも出来るんですか?」

「はい、当然可能です。2回目以降のお客様は、第1と第2を
飛ばされる方が結構多いです。あのハーデスは暗いし、悪臭が
ひどいですから・・・今ひとつ人気がありません」

「臭いもするんですか?」

「当然です。これは経験されないと解らないと思いますが、
下位のハーデスは異臭がします。空気も澱んで重く感じますし、
何より全体が薄暗く、常に監視されてるというか突き刺さる
ような視線を感じます。

その視線が気になったら最後、そのハーデスを出るまで感じられる
場合もあります。

実際に体験しないと解らないと思います。

ハッキリ云いますが錯覚でも誘導催眠でもありません」

「私も個人的に経験したくなりました。予約は電話でよろしい
のでしょうか?」

「電話もしくはメール、あるいはご来店いただくかです。
どんな方法でもかまいません」

「準備とか必要ないのですか?」

「はい、3日前から心をニュートラルに保って下さい。
怒りや執着を持ってるとそのハーデスに引き込まれやすいからです。
添乗員が付いてますから大丈夫ですけど・・出来れば執着がない
方がベストです」


「それではこの辺でインタビューを終了いたします。
お疲れ様でした。ありがとうございました。

高橋社長、私も興味あります・・・体験してみたくなりました」

「そうですか、じゃあ企業秘密をひとつ教えます。
他言しないで下さい」

「はい、他言しません」

「はい、これは決して悪いことではありません。例えば、第5、
第6ハーデスを何回か経験すると。その波動が体験者つまりお客様と
同調して意識が引上げられます。
それが、この世に戻っても持続するんです。

当然個人差はありますが・・。ここだけの話し、悟り体験です。
もう少しこの装置を発展させれば、実際に悟りを開ける
かもしれません。

これは私が第5ハーデスで科学者から聞いたことです。

昔、といってもアトランティスの頃ですが、実際にその装置で
悟ってたらしいの。

そのエジプトには悟りの部屋という所があり、そこに何日間か
籠もってたらしいの。

それを当社が作ってしまおうと考えてます」

「高橋社長、夢のあるお仕事ですね。完成のさいは是非、当社
MOMOにご一報下さい。また、大々的に取り上げますから」

「いいえ、大々的に騒がれるのは私共、望んでいません。
人類の平和に繫がればということでやってますから。」

「高橋社長は欲のないお方なんですね。尊敬しちゃいます。
じゃあ、今週の土曜日に私、予約入れます。
その体験も記事に書かせてもらって良いですか?・・・」

「それは全然かまいません」

「凄く楽しみです。ワクワクします」

「じゃぁ、私が添乗しますね、数日間は心をニュートラル
にして下さい」

新見は、第1から第6ハーデスのフルコースタイプを選択した。

注意事項が書かれた説明書を渡された。

<ハーデス体験誓約書>

※1,万一精神的な損傷があった場合は自己責任とする。

※2,ハーデス世界の政治やその他の組織に関与したり、影響を
   及ぼす行為はしない。

※3,各自の思い描く世界観とハーデスが違った場合でも、クレームの
   申し立てはしない。上記記載に従います。

年  月  日 住 所 氏 名 印

新見は60万円と誓約書を高橋社長に渡した。

高橋が「では、こちらの部屋にお入り下さい」

通された部屋は4.5畳ほどの大きさで、真ん中にリクライニング
椅子が二つ並べてあった。

関係者らしい白衣を着た女性が、装置を点検していた。

その女性が「私がこの機械操作担当の水上です。宜しく
お願いします。この装置を耳ではなく、頭の前と後ろに
装着して下さい」

渡された装置はヘッドホンのような形をしていた。前と後ろにあてがい、
その椅子に仰向けになった。その後、両耳にイヤホンが装着された。

同じ装置を高橋社長も装着し横になった。
二人のリード線は一台のモニター付きの機械に接続されていた。

「いいですか、これから経験する全てのハーデスは今の新見さんの魂
が住む世界ではありません。

あくまでも今いるこの世界が現実です。不安に感じた時あるいは
私が指示した時は、このコマを回して下さい」

水上は手の平に入る大きさのコマを渡した。

「このコマがずっと衰えることなく回り続けている所は
疑似体験つまりハーデスの世界です。

コマの回転が段々弱くなってくるハーデスは、こちらの世界です。

理屈はこうです。時間が無い為、コマは永遠に回り続けます。

時間の制約があるこの世界は、必ずコマの回転が弱まって倒れます。

つまり新見さんが寝ているこの世界です。覚えておいて下さい。

では、これからリラックスするための音楽が流れます。
目を瞑り眉間に意識を集中して下さい。

じゃあ、始めます。良い旅を」

水上は部屋の照明を絞り装置を作動させた。

新見に言いしれぬ高揚感が即、訪れ、横に何かの意識が感じられた。

その意識が語りかけてきた「リラックスして下さいね。
段々と視界が開けてきますけど、まだジッとしてて下さい。
私が案内しますから心配はいりません」


こうして新見のハーデス旅行は始まった。

【SANGA(神々の戦い)】 18「最終章」

August 18 [Mon], 2014, 5:53
18、「最終章」


[一輪の花]

 今でも忘れられないあの日、あの夜
 僕は一輪の花に出会った
 その花は僕に教えてくれた

 泣きなさい、怒りなさい、
 愛しなさいと
 そう、ありのままに、ありのままに
 風は大気の汚れを吹き跳ばし
 雨は大地を洗う 
 涙は心を洗う
 そう、心が疲れたら泣こう
 涙で洗い流そう
 今が心から泣くとき、今が涙を流すとき  
 その涙で一輪の花を咲かせよう
 疲れたら花を見よう
 花はいつもそこにある
 そう、君の胸の中に


 今でも忘れられないあの日、あの夜
 僕は一輪の花に出会った
 その花は僕に教えてくれた

 空を飛ぶ小鳥をごらん
 森の木々を飛び回るリスをごらん
 みんな初めから自由なんだ
 だから彼らに自由という言葉はいらない
 だって自由が当たりまえだから
 君は苦しいと自分を縛り
 君は悲しいと自分を縛る
 小鳥と何が違うの?どこが違うの
 自由をもっと楽しもう
 誰にも止めることは出来ない
 だって、君は初めから自由だから


 今でも忘れられないあの日、あの夜
 僕は一輪の花に出会った
 その花は僕に教えてくれた

 君は、生きるのが不安だと云う
 人は生れ、そして死に
 君は不安という妄想に
 恋をしてしまったようだ
 おおいに恋をするのも良い
 おおいに恋を楽しんで
 一生懸命、 恋を生きて
 全身全霊で恋を味わって
 もし、疲れたときは戻っておいで
 きっと、一輪の花が癒してくれる
 そしてその花はこう言うんだ
 お帰りなさいと




 今でも忘れられないあの日、あの夜
 僕は一輪の花に出会った
 その花は僕に教えてくれた

 一輪の花を見たいと君は云う
 僕はいつだって咲いてるよ
 いつだって君と一緒
 何故そんな質問するんだい?
 僕は何処にも行かない
 後にも先にも僕は君と一緒
 淋しいこと聞かないで
 君は僕を困らせようとしてる?
 心を止めてほしい
 心の奥深いところ見て
 僕は小さく小さく咲いているよ
 君のための花
 僕の声を聞くことは簡単なこと
 だって、僕は君で君は僕だから


由美子が風輝を偲び曲を作り、摩耶の作詞による作品となった。

由美子にとってもかけがえのない存在フウキだった。

時を同じくしてエジプトのピラミッドの一部が何者かの手によって
破壊される事件が世界を震撼させた。

そこにはKIZUNAと銘打った犯行声明文が地元警察と新聞社に投稿されていた。

それは、キリスト圏・イスラム圏・各宗教宗派に対しての犯行声明だった。 

我々「ONE」は人間の作った宗教を全面的に排除する。

唯一絶対神である、神は人間は作ったが宗教は作っていない。

世界人類の覚醒と世界の絶対平和のため。

という身勝手なくだりだった。

当然、世界の目はONEへ向けられた。

世界中のマスコミは一斉にONEへの活動を誹謗中傷し集中攻撃した。

エレボスの思惑通りに事は運んだ。

ピラミッドの事件以降世界からはONEの事を口にする者はいなくなった。

イギリスのとあるビルのオフィイスでマーラが呟いていた。

「人間とはそんなものよ、時代がどうであれ情報に左右されるのは世の常。

一番可愛いのはしょせん自分の身の安全。

世界に君臨する者はいつの世も民衆を誘導してやらんとな。

それも我々エレボスの勤め」

マーラは勝ち誇っていた。


そのころ東京では、旧SANGAの面々に由美子も加わり
居酒屋の一室に集まっていた。

シバが話し始めた。

「今日は大変お疲れ様でした。本当にみんな久しぶりだね。

元気そうでなによりだよ。

今日は、本当にこれで良いのか?

もう一度みんなの意見を聞きたいと思って集まってもらった。

フウキ君は我々に、ある意味人間として、

いや、魂が覚醒する切っ掛けを与えてくれた。

そして目指す目的はSANGA(安住の地)のはず。

たとえ、我が身が滅びようとも魂は永遠に不滅。 

今、やらずして何時、やるのか?

フウキ君が生前、ことある事に言っていた言葉を思い出して欲しい。

ひとりが変われば自ずと廻り、そして地域社会、

そして世界が変わると何時も言っていた。

それが今なんじゃないかって僕は思うんだ。

思い起こしてほしい。

あの久慈氏が晩年は180度人間が変わった。

たったひとつの詩と摩耶さんとの出会いで。

人間は瞬時に変われるんです。

僕はフウキ君の志を繋げて行きたいし実現したいんだ。

フウキ君の死後、僕は臆病になっていた。

今、気が付いたんだ。僕達は志半ばなんだってね。

みんなの意見を聞きたい」


摩耶が言った「私もこの数年何かを置き忘れているようで、

しっくりこなかったの。

今、シバさんの言葉で何が足らなかったのかが解りました。

SANGAは志半ばだったって事に。

そして私も志半ばだったって事を、

そしてこれが私の天命だって事を」


インドラが涙目で言葉を発した。「僕も摩耶さんと同じです。

今、此処に何で僕がいるのか。

どうあるべきか解った気がします。

僕もフウキさんの目指した世の中になって欲しいです」


花梨が言った「SANGAの中で私が一番先にフウキさんと出会い、

土地柄が札幌でもあって、一番長く接してきました。

フウキさんは何時も前を見て歩いてました。

私のこの世で尊敬するフウキさんがやってきたことを、

完結させたいと思います」


ラトリが言った「僕もフウキさんを追っかけて札幌の大学を受験し、

半ば強引に親に願い出て住んだ札幌。

フウキさんから色々と学んできました。

僕もSANGAを愛してます。

そしてライフワークと自覚してます」


私もいいですか?

由美子が口を開いた。

「私は晩年のフウキさんしか知りません。

でもフウキさんの話は花梨さんから、ことある事に聞いて来ました。

私は、ろくすっぽ会話も出来ない徳島の田舎の娘でした。

フウキさんが切っ掛けを与えてくれたおかげで人前で表現できました。

ここにこうして居れるのもフウキさんのおかげです。

皆さんの邪魔にならないようにしますので、

どうか、どうか私を仲間に入れて下さい」

シバが「ここに居ると言うことはもう仲間なんですよ。

フウキ君が最後に見つけてくれた大事なSANGAの仲間です」

全員が拍手をした。

アグニが話し始めた「僕もみんなと同じです」

簡単に云い終えたアグニはバックから包み物を取り出した。

「今日はみんなに視てもらいたい物があるんです。
これは僕が小樽の喫茶店でパラレルのフウキさんに貰った緑色の石なんです」

包みを開けて花梨に手渡した。

「例のエジプトテロ事件の前に、小樽でフウキさんから預かった石なんです。

何故、僕が預かったのか未だに解らないんです。

皆さん手にとって感じてみて下さい」

由美子が「あの〜〜う、フウキさんと会ったんですか?」

シバが説明した「パラレルワールドのもうひとりのフウキ君が
半霊半物質でアグニの前に現われたんだ」

「それって幽霊ですか?」

「ウ〜〜ン。とも違うかな・・別世界のフウキ君ってとこかな」

「由美子ちゃん、後で教えてあげるね」花梨が言った。

摩耶が切り出した。

「前回と同じ活動内容でするの?

それとも違う方法か何かで?」

アグニが言った。
「此処に居るのが歌い手2人・詩・書・絵・小説・癒しの波長」

インドラが続いた「これらを複合して統合するとどうなりますかね・・・」

「あっ・・・」突然、由美子が声を上げた。

全員、由美子に集中した。

「由美子ちゃん、どうかしたの?」

花梨が声を掛けた。

摩耶も視線を由美子に向けた。

由美子はじっと目を伏せて何かを視ていた。

そして由美子の片手には緑の石が握られていた。

由美子は石を握って直ぐ、身体に振動が走った。

そして次の瞬間、自分の身体を眼下にして宇宙空間をさまよっている自分を感じた。

間もなく風景が変わって今度は白い宮殿のような処に自分が座っていた。

右側を視るとあの懐かしい顔がそこにあった。

「フウキさん、お久しぶりです」

手を振っているフウキがにこやかに立っていた。

その横には見慣れた顔もあった。

「あっ、ヘルさんもお久しぶりでございます」

由美子はサンガにトリップしてたのだった。

しかも由美子はヘルを知っていた。

ヘルが「これから数年後の地球の姿を見せてあげよう。

その世界は望む望まざるに係わらず、進む道は自分で決めているのです。

そこは嘘隠しの出来ない自分の行く地球の姿です。

大きく分けると地球は2方向に分かれる」

由美子が初めに垣間見た世界は、

薄暗くチョット獣臭いジメジメした何とも云えない、

よどんだ空気の世界だった。

人間は様々で、ブツブツ何か独り言を言ってる者。

目が血走った修羅の形相のような者。

長い髪に半裸同然の出で立ちで男に媚びを売る女性。

等々、自分の欲望丸出しの世界がそこにあった。

胸に声が聞こえた。

「ここは将来の地球の姿、自分最優先の世界」

次に垣間見た世界は、ほんのり暖かく初夏の日差しのように心地よい、

そして秋のような透き通った空気が本当に遠くまで見通せた。

道を歩く人は皆、輝いていて、にこやかでピュアな感じがする。


先ほどとは全く違った世界がそこにあった。

「もうひとつの地球の将来」

声が胸に響いた。

次の瞬間SANGAの仲間の中に座っていた。

花梨が「由美子ちゃん、トリップしたの?」

「はい、身体から飛び出したと思ったらフウキさんと
ヘルさんの居る世界に行きました。

そしてヘルさんが近未来の地球は二つに分かれていて、

その二つの地球を少しだけ視せてもらいました。

サンガのヘルさんが云うには、

地球は近い将来二つに分離するそうです。

ひとつは自己中心的で欲望のままに我を通そうとする世界。

今の世の中の灰色な部分をデフォルメしたような世界。

もうひとつは調和の取れた、神の世に近い世界みたいです。

フウキさんもサンガにおりました。ニコニコ笑ってました」

話を聞いていたシバが口を開いた。

「ちょっとごめん・・・みんな、僕の話を聞いてくれるかい。

今の由美子ちゃんの話を聞いていて思ったんだけど。

今から云うね。

もう一度、SANGAの存在意義を確認しないかい。

僕は今まで、この世の中を楽園的な世の中に修正できないかなと考え、

行動してきたところがあるんだ。

百匹目の猿じゃあないけど、

僕達SANGAの影響が知らず知らず廻りに及ぼすだろうと考えていた。

でも、それは思い上がりではないかなと思ったんだ、たった今。

由美子ちゃんがサンガで視せられた近未来の世界は、

ズバリ二方向に分離されていて双方の世界が存在する。

今のこの世を良しとする利己主義の世界と調和を求める人間、

いや本来の魂のすがた。

当然、どちらを選ぶのも各自次第ってわけ。

だから近未来は分離されているんだ。

で、僕らの意義は後者の調和を求める人の少しでも手助けになればと思うんだ。

あくまでもガイドのような縁の下の力持ち的な・・・・どうだろうか?」

花梨が言った「私も今、そんな気がします。

私は歌の世界を通してだけど、

同じ歌でもその時々で伝わり方が違うのね。

原因は色んな要因があると思うけど、

それって原因のひとつにこちら側があるような気がするの。

最初の頃は、只がむしゃらで心に余裕がなかったの。

でもちゃんと伝わったのね。

そのうち馴れてくると客席の反応を気にしたり、

歌う側も馴れてきたっていうか新鮮味が欠けたっていうか・・
と同時に心に穴が開くことがあったのね。

そこいくとKIZUNAのような自然発生のパワーって凄いなって思うの。

それに作られたものって冷めるのも早いような気がするの・・
それは此処のみんなも感じてると思うけど」

由美子も深く頷いた

「私も押しつけにならないKIZUNAの歌のように
自然発生的な歌も良いかなって思いました」

全員一致でSANGAの今後の方向性が決定された。

活動は再開する。

但し自然発生的な方向性を目的とする。 

全ての教義的なものは無く、あくまでも個人の自主性を最優先し尊重して活動する。

SANGAに類する作品は著作権フリーとし、

宣伝活動は個々の判断によるものとする。


摩耶作詞・由美子作曲の作品「一輪の花」がネット配信され
世界中で歌われることとなった。

その後、地球はサンガの予言通り二方向に別れていった。

2026年、争いのない平和に満ちた地球が再構築された。

もうかつての地球を思い起こす者は無かった。

新生地球には国境は無く、人種や差別、言葉の違いや性別さえも無くなっていた。

かつての地球的習わし、常識の類はこの新生地球にはもはや存在していなかった。

真実の文明に支えられた地球は宇宙の仲間入りを果たし、

霊的文明へと進化を遂げていた。

将来の地球が光り輝く星になりますように、願いを込めてSANGAここに完結。

THE END

【SANGA(神々の戦い)】 17

August 17 [Sun], 2014, 10:35
17、「石」

 ここは札幌の隣町小樽。

季節は初夏。観光客が絶えないこの街に、

昔は穀物倉庫として利用されていた石造りの倉庫があった。

今はその倉庫を現代風にアレンジし小洒落た喫茶店として営業している。

照明はランプだけというレトロ感が観光客には人気があり
今日も沢山の観光客が出入りしていた。

そんな観光客のひとりでスケッチブック片手に楽しそうに
人間ウォッチングしている男が居た。

その男は元SANGAのアグニだった。

アグニはひと月前に視た夢が気になり、3日前から小樽に滞在していた。

その夢とは・・・この喫茶店で懐かしい人と出会い
固い握手をしているものだった。

誰とは特定出来ないものの、只々懐かしさだけが印象的な知人。

そしてその場所がこの喫茶店だった。

この店を特定する迄ほぼひと月費やし、

今日が小樽に滞在して三日目、

このまま何の変化が無いなら、明日には帰郷する予定でいた。

ウェイトレスが話しかけてきた。

「お客様、ご来店ありがとうございます。当店より、

オリジナルのランプ型ストラップを記念にお持ち帰り下さい」

「あ、ありがとうございます」

「ところで3日前から、誰かをお待ちのようですが待ち合わせか何かですか?」

ウェイトレスが屈託のない笑顔で聞いてきた。

「あ、ハイ・・夢で懐かしい誰かと、この店で逢っていたんです。

とっても大事な人とね、それでつい来ちゃいました。

でも今日、逢えなければ帰ります。ご迷惑駆けます」

「いえ、素敵なお話しですね。お会い出来る事を願ってます」

「ありがとうございます」

結局その日も夕方まで何の出会いもなく帰ろうと心に決め、

帰り支度をしたその時だった。 

薄暗い店内に男性が入ってきた。

顔は確認できないがアグニの胸に

「待たせたね」

という耳には聞こえないが直接心にその声は伝わってきた。

その男は視線をアグニに向けたまま薄暗い店内を
アグニの座るテーブルに向かって歩いてきた。

アグニは近づいてきたその男を直視した。

アグニは思わず声を発した。

「エッ!ウソッ・・」その目線の先に立っていた人物は宮園風輝その人だった。

瞬間アグニの目に涙が溢れてきた、

男性はアグニの正面に座った。

アグニは心の動揺を抑えながら口を開いた「あなたは、どちら様?」

男はニヤニヤしながら口を開いた。

「どうしたアグニ。別れて3年過ぎたらもう僕を忘れてしまったのかい?」

「・・・・」アグニはフウキならではの懐かしいオーラを確認した、

と同時に身体が震えてきた。

アグニの思考は完全にパニックを起こしていた。

フウキは囁いた。

「ようやっと解ってくれたらしいね。そう、君の目の前にいる僕は宮園風輝だよ、

そんな幽霊でも見たような顔をするなよ・・フフッ」

「幽霊のほうが、まだましです」

ウェイトレスが近寄ってきて言った「いらっしゃいませ」
フウキにメニューを差し出し、

視線をアグニに移すと「お客様、待った甲斐があったようですね」
と微笑んで話しかけてきた。

ウェイトレスにはアグニが待ちこがれていた逢いたい人にようやっと会えた
喜びでアグニが涙ぐんでいるように映った。

「コーヒー下さい」

「ハイ、かしこまりました」

ウェイトレスが去るのを待ってまたアグニは話し始めた。

「フウキさん。これはいったいどういう事なんですか?」

「今、君の前に座っている僕はパラレルワールドのフウキなんだ。

この世界で死んだフウキは僕と別のフウキなんだ」

「別世界のフウキさんがこっちの世界に来るって?
そういう事、出来るんですか?」

「現実には不可能さ。でもこの世に波長を合わせればある意味、
可能なんだよ。但し反霊反物質だけどね。

アグニ君の視ている僕はイリュージョンで超リアルな幻想。

それはこの際、おいといて。

僕がここにこうしている理由は君に渡したい物があるからなんだ」

「あ、はい・・?」次の瞬間フウキは空中から
緑色の石を取り出しアグニに渡した。

「?石ですか?」

「ただの石と違うんだ。時空移動を容易くする石なんだよ。

これを使い別の地球で行われている光景を視て、

SANGAのみんなに伝えてほしい。

今こそSANGAを復活させる大事なタイミングなんだ。

それによって地球は大きく変わる。

その切っ掛けをアグニ君に頼みたい」

そう言い終えるとフウキは煙のように徐々に消えてしまった。

ウェイトレスがコーヒーを持ってきた時にはアグニはひとりで座っていた。

「あれ????待ち合わせの男性はどこに??」

「急いでたみたいで帰りました。コーヒーは僕が頂きます」

通路は誰も通った気配がなかったのでウェイトレスは
狐に摘まれたように唖然としていた。

東京に戻ったアグニはシバに事の経緯を話した。

「そうか、フウキ君が小樽に・・」

「そうなんです。何で小樽なのか僕にも解らないけど、
この緑の石はこうして現実にここにあるんです」

アグニはバックから石を取り出しシバに手渡した。受け取ったシバは何かを観察していた。
シバが話し始めた「待ってるね!この石は
誰かを待ってるような気がするんだけど・・・?」

「シバさんもそう思いますか?僕も数日持っていて同じ事を感じてました。

この石には意識があって、誰かこの石の力を引き出せる所有者に渡してほしい。

その相応しい所有者を僕達に探し出してほしいのかなって感じてたんです」

「そうかもね、たぶんそれだよ。
フウキくんが係わってアグニくんに渡したという事はアグニ君、

いやSANGAのメンバーは絶対に使命感を持ってやってくれるだろうという
事かも知れないね」

「久々に6人集合しますか?」2人は久々に心の内側に熱いものを感じていた。


ここは韓国の釜山市。

世界権力エレボスの(アメリカのマーラ)(イギリスのアンラ)
久慈健栄の後を継いだ(韓国のキム・シャウン)の3人が打合せをしていた。

マーラから提案があった「今、世の中ではONEという実体の無い、

しかし確実に存在してる集合体があるのはご存じだと思う。

はじめは只の流行と気にしていなかったが、

ネット社会では異常な勢いで広がっている。

それも年齢層・性別・人種に関係無く早い話が今では
誰もがONEの存在を知っている。

いわば潜在的集合意識が動き始めてきたという事じゃ。

今の社会は我々の先人達が集合意識を誘導して作り上げてきた我々の為の社会。

その呪縛から世界は目覚めつつある。

ここで処置しないとならんのだよ」

アンラが言った「3年程前にミスター・ミヤゾノご世を去っていらい
SANGAという小さな組織も今は無い。

それで終わりと思ったが、違う動きが発生したようだ。

今度は首謀者が無く本当に自然発生なのだ。

歴史的にもルネッサンス期が自然発生だったが今度は情報量と速度が格段に違う。

組織が無いから叩きようがない・・」

キム・シャウンが口を開いた「SANGAの面々を3年程、見張ってはいるが

残党の6人やSANGAの会員も、この3年間まったく動きが無い。

ONEの影響はヨーロッパやアメリカからの影響が強いようです」

マーラが「実体の無い力(組織)か・・・厄介じゃのう」

「9・11の時のように世界の目を違う方向にそらさんとならんようだのう・・」
アンラが言った。

「テロか・・」マーラが追い打ちを掛けた。

キムが「やはり宗教戦争が手っ取り早く単純で自然ですか・・」

マーラが「キリスト・イスラム・仏教・ヒンズーと影響を与えないと毎度のように
キリスト圏とイスラム圏だけでは世界は動かんぞ」

キムが言った「宇宙はどうですか?宇宙人の存在を世界に知らしめ、

地球人が一丸となってある方向に向かうというシナリオはどうですか?

SF小説のようですが如何かと?」


「その手を使うと奴ら(異星人)を表に公表せねばなるまいのう・・
そういう時期か・・・?」

マーラは腕を組みながら呟いた。

アンラは「正直言って奴らは我々と相反する者、
下手をすると一般人を覚醒させんとも限らん。

覚醒した人間が増えたら我らの世界も終焉じゃ。・・どうしたものか?」

マーラが言った「やはり今回もテロしかあるまい!」アンラとキムが首を縦に振った。

マーラが続けた「今度も世界的に驚くような事を仕掛けんといかんだろうな・・・
ピラミッドでも破壊するか?」 

キムは「好い考えですね、それをやったら世界中が敵になります。

そこに「KIZUNA」と書いたメッセージを残し、

一気にKIZUNAの悪いイメージを世界に発信ましょう」

マーラが言った「キム・・おぬしもなかなかの悪よのう・・・フッフッフッフ・・・」

エレボスの3人は不気味な笑みを浮かばせていた。

釜山の街は闇に染まりかけていた。

【SANGA(神々の戦い)】 16

August 15 [Fri], 2014, 6:37
16、「ONE」

 フウキは広島市の本通商店街に座っていた。

「あのう、宜しいでしょうか?」

「はい、いらっしゃい!どうぞ」
20代前半の女の子の姿がそこにあった。 

「私は今、服飾系の仕事をしてるんですけど、

上司との人間関係や仕事上でも会社の方針と合わない部分があって
退職しようかどうか悩んでます。

仕事的には嫌いでないので、それも含めて相談したくてきました」

「はい、まずあなたは、どうなりたいですか?」

「どうと言うと?」

「具体的に例えば技術を身に付けたいとか、結婚までの腰掛けとか、

あなたと会社との繋がりのスタンスの事です」

「技術を身に付けたいです」

「では、今の職場はそういう意味ではどうですか?」

「はい、技術的には申し分ありません」

「じゃあその技術習得のひとつに
人間関係も含まれているとしたらどうしますか?」

「仕事と人間関係ですか?」

「はい」

「・・・・どうしてですか」

「あなたは生まれてから死ぬまで、ずっと人間と係わっていきます。

例外はなく永遠にです。解ります?」

「はい」

「そして、あなたに都合のいい人間というのは、

あなたがこの世を生きる為に障害になる事は教えてくれません」

「あ、はい」

「社会には色んな人間がいて皆それぞれ主張しあい、時には味方となり、
そして敵にもなります。その縮図が社会だと思いませんか?」

「はい」

「障害を避けて生きてきた人生と、障害は障害と認めそれと向き合う人生。

どちらを選びますか?

もしあなたに子供がいて同じ事で悩んでいたら、

何と声を掛けます?どちらを選ぶのも自由です。

その事をまず考えてみませんか。

もし本当に嫌なら退社を勧めます。

精神的にも良くないので・・」

「はい・・・何か解ったような気がしてきました。

ありがとうございました。

わたし、もう一度自分と向き合ってみます」

「良い朝を迎えますように」フウキは軽く手を振った。

仕事を終えたフウキはテーブルとイスをたたみ、

身支度をして帰り道の路地に差し掛かった。

次の瞬間、暗闇の中から2人の黒い影が現われた。

「宮園風輝さんだね」男に声を掛けられた。

それはトーンの低い厳つい声だった。

「ハイ、君は?」次の瞬間フウキの背中に激痛が走った。

「うっ・うっ・・・・つ・ついに・・きたか・・」後ろから、

そっと近寄ってきたもうひとりの男がフウキの背中に
サバイバルナイフを突き刺した。

そして2人組の男が暗闇に走り去っていった。

フウキは前屈みのまま倒れ込んでしまった。次の瞬間、

フウキは意識を肉体から切り離した。

痛みからは解放されたが肉体的なダメージはひどかった。

翌早朝、新聞配達員によって発見されたが、倒れてから既に5時間が経過していた。

警察と救急車が来た時にはフウキの身体は帰らぬ人となっていた。

警察の発表では解剖の結果、刃物のような者で背中をひと突き。

それが心臓に達し致命傷になったとの結論がなされた。

フウキの所持品が無いことから金品目的の通り魔的犯行と断定した。

公には発表されていないが、

フウキの遺体は死後硬直が認められず、

監察医は頭を傾げていた。

フウキは刺された直後に魂を肉体から意識的に離脱させたために
死後硬直が無かったからだった。

フウキが息を引き取ったと思われる同時刻に
SANNGA6人は同じ夢を視た。

笑みを浮かべたフウキが白い装いで目の前に立っていた。

「今日で僕はサンガに帰ります。

SANGAを一度解散してほしい。

そして個々の活動をしながら過ごして下さい。

再復活の為に今はエネルギーを蓄えてほしい。
 
僕はいつでも皆さんを応援してます。

今後はチャネリングでお話ししましょう。 

お世話になりました。

又、逢いましょう」

朝を待って6人はいっせいに連絡を取り合った。 

シバの指示で札幌在住のラトリが代表し、

余市町のフウキの実家に連絡を入れたが、

何の連絡も入っていないとの事だった。

次はインドラからの提案で正午になったらエネルギーをひとつにし、

同時にフウキへチャネリングを試みる事にした。

打合せ時刻になって直ぐに花梨がフウキと繋がった。

花梨の話では昨夜、エレボスに手配された2人組の男に後ろから

刺されフウキの肉体は死を迎えたというものだった。

程なくしてフウキの実家から札幌のラトリに電話が入った。

「広島の警察から連絡が入りフウキらしき男性が殺されたので
身元確認をしてほしい」という連絡があったらしい。

インドラ・花梨・シバ・摩耶の4人は新幹線で広島に向かった。

警察の霊安室では変わり果てたフウキの姿があった。

司法解剖の結果、後ろからサバイバルナイフで
心臓をひと突きされた事による即死というものだった。

インドラ・摩耶・花梨・シバはその場で天を仰いだ。

遺体はフウキの家族に引き取られ、

故郷での葬儀にはSANGA6人と由美子が列席した。

宮園風輝30歳の人生はここに終わった。

SANGAは表向きフウキの遺言通り解散された。


そしてフウキの死から3年が過ぎた。

世の中は管理・監視社会と変貌した。

何をするにも身分証明書の提示が義務付けされたり、

運転免許証にもマイクロチップが埋め込まれ、

街のあらゆる所に監視カメラの設置がされた。

犯罪登録された人間は6時間以内には、

国内であれば潜伏場所を90%解析出来る仕組みも開発された。

これらは表向き犯罪防止と称し、実は人間管理の為のシステムで、

何時何処で誰と誰が何を話したかまで監視する仕組みでだった。

さらに個人の行動も過去数時間前まで
時間を逆行する事が出来るシステムが構築された。

テロ対策室には今はもう解散したSANGAも
「テロ活動の疑いあり」として監視登録されていた。

世界はエレボスの思惑通りワンワールドに統一されようとしていたが、

それに立ち向かう反体派も水面下で組織が結成され、

ネットを通じて世界に配信されていた。

ネットの力は驚異的な早さで広がり、

そこには人種の壁・言葉や身分の違いはもちろん、

キリスト教・イスラム教・仏教・ヒンズー教と、

あらゆる宗教の壁も取り外された。

エレボスの意思とは全く別の意味で、

世界の意識は自然と統一されつつあった。

世界に発信される際の合い言葉は「ONE」発信源はイギリスだったが、

初めは水面下で燻っていたONEの活動も時と共に急激に広がった。

まるで圧縮されたゴム風船から解き放たれた空気のような勢いだった。 

魂の叫びは、ある時は歌や絵などに隠されていた。

そんな中で日本の歌手、花梨の書いた曲が世界に無料配信されていた。

その曲は「KIZUNA(絆)」という題名で、

フウキの事を思い描きながら作られたバラード。

歌詞の中にフウキとサンガの文字がアナグラムとして隠されていた。

KIZUNAは著作権フリーとしたこともあり、

ONEが中心となって8カ国語に翻訳され配信された。

そして世界中で愛される歌へと成長した。

配信されて2ヶ月で世界に広まる快挙だった。

このKIZUNAはただの歌ではなかった。

花梨が旧SANGAの仲間と音魂(おとだま)を利用した魂の癒しの歌であった。

フウキの死後徐々に、そして急激に世界は動き始めた。

エレボスの圧力規制の執行よりもONEの伝わる波は早かった。

エレボスが弾圧を掛けようとした時には、

すでに違う風が吹くという具合にONEの動きは目を見張るものがあった。

偏らない思想・音楽・文学等、ONEの影響は止まるところを知らず、
21世紀のルネッサンスとまで云われた。

またONEとは数字の始まり1であり、創造性、意志の強さ、
暗い夜が終わり夜明けの始まりという意味である。

着実に目に見えて世界は変わりつつあった。

【SANGA(神々の戦い)】 15

August 14 [Thu], 2014, 6:26
15、「ね」

 シバと摩耶は朝早くから事務所に詰めていた。

シバはフウキの残した言葉の意味が気になり、

摩耶とフウキの言葉の意味を考えていた。

何故このタイミングで「これが最後になるので一気に引揚げますから」
・・・これはどういう意味だろう?


その日の昼頃、事務所にフウキが訪れた。

「シバさん、摩耶ちゃん、昨日はお疲れ様でした」

フウキは、いつもと変わらぬ様子で椅子に腰掛けた。 

摩耶が口火を切った「フウキさん昨日、これが最後になるので
一気に引揚げますからって言ってましたが、どういう意味なんですか?」

「うん、影の支配者エレボスのターゲットはズバリ、 
僕、宮園風輝なんだ。

このままだとSANGAの存続に係わってくる可能性がある。

だからSANGAとの係わりを絶とうと考えての言葉なんだ」

シバが「まだまだ我々にはフウキ君が必要なんだけど」

「シバさん、摩耶さん。僕は永遠に、さよならをする訳ではないんです。

ほとぼりが冷めるまでの間、僕は僕で旅をしながら僕独自のやり方でやっていきます。

今、芽吹いたばかりのSANGAという花の芽を刈り取りたくないんです。
どうか解ってやって下さい」

摩耶が肩をふるわせて泣いていた。

その摩耶を労るようにシバは震える摩耶の肩に優しく手を乗せていた。

シバが言った「摩耶ちゃん、後の事は僕達6人が協力して頑張ろうよ。

そしてフウキ君の帰る場所を守ろう!」

摩耶はシバの言葉に目を赤くしながら頷いた。

「じゃあ、しばらく留守にしますので他の皆さんにも宜しく伝えて下さい」

フウキはSANGAの事務所を後にした。

フウキは名前を「フレイ」と改名し旅に出た。

天界サンガは風の宮の神官フレイの名前だった。

フレイは四国の徳島にいた。

徳島市内の南新町でフレイは商店街の閉まった後、

商店の軒先に小さなテーブルとイスを置いて座っていた。

テーブルの上には「相談に乗ります」とだけ書かれていた。

恋愛の相談が多くあったが、フレイの目的は相談の内容にあるのではなく、

縁のある相談者を待っていた。

「あのう、チョット宜しいですか?」20代の男性であった。 

「はい!どうぞ」 

「相談事というか、宗教の事なんですが宜しいでしょうか?」 

「はい、どんな事ですか?」

「昔からこの町は真言宗の檀家が多く、僕の家も代々そうなんです。

でも今、結婚を前提に付き合っている彼女の家は熱心な法華教なんですね。

その教義の中に真言亡国で(家の柱)つまり当主が弱いとかで
向こうの両親が結婚に反対してるんです。

僕はハッキリ言って宗教の事は解らないんですがどう思われますか?

そして今後どうやれば上手くいきますか?」

「はい!ズバリ結婚と宗教は関係無いと思います。

問題はあなた達がどうありたいかという事です。

宗教って人間が幸せになる為の心の指針の様なものです。

結婚の障害になる様な宗教は本当に真の宗教と言えるでしょうか?

別の言い方をするなら、お二人が本当に結ばれたいのなら、
自分達はどうあるべきか。

が大事な事ではないでしょうか?結婚するのはお二人です。

家系ではありませんし、まして親でもありません。

宗教などもってのほかだと思います。どうでしょうか?」

「そうですが、親が・・・」 

「結婚するのは?」 

「自分達です」

大切なのは?」 

「自分達です」

「誰の為の結婚ですか?」 

「自分達の為です」

「もう、結論は出ているようですね。結婚は自分達の為にあるんです。

因みに彼女の名前と生年月日は?」 

「レイカです。昭和59年12月18日です」

「はい、彼女は冷え性ですから、根菜類を多く食べて身体を温め、

そこを克服出来たら子宝に恵まれます。

言葉の意味が解りますか?・・・お幸せに!」

「な・何か吹っ切れました!勇気が湧いてきました!
ありがとうございます!」

男性の顔は明るくなり暗闇に去っていった。

「いらっしゃいませ」今日二人目の客である。
年の頃は25歳くらいの女性だった。 

「あのね、私ね、由美子って言います。

何をね、やったらいいでしょうか?」

「面白いね!君は何が好きなんだい?」

「オムレツと半熟卵です」

「そっか。じゃあ、おでんの卵は?」

「好きです。あとダシ入りの厚焼き卵もね」

「でも君、オムレツにはなれないよ。
半熟卵にもね。さあどうしようか?」

「・・・???」

「僕が聞いたのは君が何をしている時が一番好きなの?って事さ」

「ギターです」

「ギターか・・チョット待ってね。君の生年月日は?」

「昭和62年2月28日の14時30分です。何秒頃か解りませんけど」

フレイは彼女の左上を視て優しい声で言った「君はどんな曲が好きなの?」

由美子は目を輝かせながら言った「ビートルズが好きですね。

あとサイモンとガーファンクルやELPもね」

「君、本当に音楽好きなんだねえ」

「はい、大好きです。特に昔の歌が・・・でも父と母がね、
あんまりやってはいけませんと言うんですねね・・・」

「何でかな?」

「私がね、一生懸命やるとね、時間が解らなくなって気が付くとね、

1日くらい経ってたりするのね。それだから母に怒られます」

「何で怒るの?」

「私、学校もね、アルバイトもね、ギター弾くと休むんですね・・フフフ」

由美子は自分で言って笑った。 

「君、音楽やってる時って何処に行ってるか解る?」

「な、な、何で解るんですか???初めて聞かれました!」
由美子は目を丸くしながら話し始めた。

「あのですね、その場所はね、

全部が音っていうかリズムっていうか気持ちいい香りのする場所なんですね。

そこで曲を作ると楽しいです。

昨日もね、晩ご飯食べてから曲作りしたんですね。

気が付いたら朝ご飯の時間だったりしました」

「そっか。由美子くん、君は花梨っていうミュージシャン知ってるかい?」

「はい、彼女の歌は好きですね」

「そうか。じゃあ今度はギター持ってきて
僕に何曲か聞かせてほしいな。出来るかい?」

「私の家、すぐそこなんですね。今でもいいですか?ね?は〜〜い!」

由美子は話しもそこそこに駆けだして行った。

30分程して由美子はギターを背負ってやってきた。

その後ろには両親が心配そうな顔をして同行してきた。 

「やあ、早かったね」

「御両親も一緒に来ましたね」

「今晩わ。僕はフレイと申します。

今日初めて由美子さんとお会いしまして、

彼女の作った曲を聴かせてってお願いしました」

フレイはにこやかに頭を下げた。

「で、ご両親は彼女の作った曲を聴いた事ありますか?」 

母親が言った「この娘はいつも自分の部屋でギターを弾きながら

歌ってますから聞いてますが、何か?」

「正式に目の前でという意味です」

「いいえ」

「それでは、ここで一緒に聞いてみませんか?」

「聞くのは良いですが、彼方はいったいどなたさんですか?」

テーブルの上を指さして「僕はみての通り、人と会話をする会話士です」 

「会話士??」2人は怪訝な顔をしていた。

そこに由美子が「歌っていいですかね?」

フレイが言った「いつも通りに歌ってね」

「はい!」

最初の曲はAマイナから始まる、しっとりとしたバラードだった。

次はアルペジオでテンポのいい曲だった。

最初は多少の恥じらいもあり緊張した様子の由美子だったが、

その後は完全に音楽の中に入ってしまった。

気が付いた時、周りには30人程の若者が聞き入っていた。 

30分程で歌い終わり由美子は我に返った。

そこには見慣れない人達が大勢いて由美子は驚いた。

商店街中、由美子への賞賛の拍手が響き渡り、アンコールの声が上がっていた。

その光景を目の当たりにした両親は狐に摘まれたか、

別世界に迷い込んだかのように思えた。

「どうでしたか?由美子さんの初舞台は」フレイが尋ねた。

父親が「とにかく今は驚きのひと言です。

この娘は小さい頃から表現が下手でした。

それでギターを抱え、ひとり部屋に籠もりストレスを
発散してるんだとばかり思っていました。

そこで見ている妻も、私と同じ気持ちだと思います」

母親は目を潤ませながら由美子を見ていた。

「ところで、彼方は以前からあの子を知っているんですか?」

「いいえ。今日ここで初めてお会いしましたが」

「何故あの娘が歌を作ってる事など知ってるんですか?

恥ずかしながら親も知らない事なんです」

「僕が会話士だからです」

「会・話・士ですか?」

「はい!言葉以外でも会話は出来るんです。

相手の心の声と会話するんです」

「由美子の心の声は何と?・・」

途中で由美子が近寄って来て話しは中断された。

歌い終わり観衆も引け先程とは変わり静かな商店街に戻っていた。

その後3人はフレイに頭を下げて帰っていった。

その別れ際、由美子は満面の笑みを浮かべながらフレイに手を振っていた。

その印象的な微笑んだ絵はフレイの心に残った。

二日後、由美子が顔を出した。

「先日は、どうもありがとうございました」

「どういたしまして。ところで両親とちゃんと向き合って話しをしたかい?」

「はい!もう私の全行動に対して口出しはしないようにするから、

自分のやりたい事をやりなさいと言われました」

すっかり口癖の「ね」が治っていた。

「そうかい!理解してもらってよかったね。それで、これからどうする?」

「私、音楽に関係する仕事をしてみたいです」

フレイはメモ用紙にSANGAのアドレスを書いて由美子に渡した

「じゃあ、ここに摩耶さんという君と同じくらいの娘が居るから電話して、

花梨の関西・四国方面でのコンサートスケジュールを聞いて
直接会いに行くといい。

フウキからの紹介って言ったらいいよ、相談に乗ってくれるから。

後は君次第だよ。

これだけは憶えておいてね、由美子さんは頑張らなくていい。

君らしくいればいい」

「どういう意味ですか?」

「分かりやすく言うと・・・自分流!

僕はまた違う街に行くからね。また何処かで会おう」

その後、由美子は神戸ドームコンサートに来ていた花梨の楽屋を訪ねていた。

「初めまして。私は由美子と言いましてミュージシャンを志しています。

徳島でフレイさん、いやフウキさんと知り合いまして、

花梨さんを紹介いただきました」

「そうですか。で、彼は元気でしたか?

今、何処に居るんですか?」

「今はもう徳島を出て、行き先は解りません」

「そうですか。で、由美子さんは何をなさってるの?」

「曲を作ってます」

「そうですか・・で、今日は何処に泊まるんですか?」

「神戸から徳島へバスで帰ります」

「せっかくだからコンサートを見て、

私達の宿泊するホテルに泊まりませんか?

ついでに打ち上げも付き合ってよ。

フウキさんの話しを聞かせて」


楽屋から出た由美子を会場へスタッフが席に案内した。

由美子がフレイという人物の一角に触れた瞬間だった。

コンサートは2時間半で終了した。

由美子にとって初めて見るコンサートであり、

花梨の発するバイブレーションに触れたのであった。

最初、涙を必死にこらえていたが、

周りは当たり前のように涙を流していたのを確認すると、

こらえる必要性が無い事に気付いた由美子はこらえるのをやめた。

こんな感動は初めてだった。

「花梨さんって凄い!」と心から思った。

コンサートも終わり、2人は大阪ミナミのホテルにチェックインした。

花梨が「ホテル代は私が払うから遠慮しないでね。

じゃあシャワーを浴びて11時にロビーに来てね」

「はい」由美子にとっては夢のような一時であった。 

「おまたせ。それじゃあ行きますか」

一行30名は難波の料理屋で打ち上げをして、

二次会はカラオケ店に移動した。

大きな部屋で二次会は行われた。

挨拶は花梨が勤めた「今日は大変お疲れ様でした。

二次会も盛り上がりましょう。

今日は徳島から私の友達の由美子さんも参加です。

大いに飲みましょう。乾杯!」

あれだけのコンサートを作り上げた
メンバーだけあってパワーも凄かった。

途中メンバーのマコトがマイクを取った。

「それでは花梨ちゃんのお友達にここらで一曲お願いします」

「さんせ〜〜い」声を上げたのは花梨だった。

「はい。私はギターの弾き語りでいいですか?」
バンドのメンバーからギターを借りた。

「じゃあ、私の作った曲で(風)を歌います」

側から小声で「おい、あの娘、素人だろ?プロを前によくやるよな。

最近の女の子は大胆というか怖いもの知らずというか・・」 

チューニングを終えた由美子が「風、お聞きください」

風はフレイに披露した想い出のバラード曲だった。

歌い始めて間もなく、ざわついていた会場に静寂が走った。

聞こえるのは由美子の歌声とアコスティックギターの調べだった。

素人の女の子がプロの集団を黙らせた瞬間だった。

はじめは緊張していた由美子だったがそれも束の間、

曲とギターと由美子がひとつとなった。

由美子の心の中には心地良さ以外、何も無かった。

歌い終えた瞬間、怒濤の様な歓声と拍手が響いた。

花梨とは違った意味で「凄い!」皆が認めた瞬間だった。

そのままアンコールをもらい、結局3曲歌う事になった。

一番喜んだのは花梨であった。

「さすがフウキさん。強烈な人を送り込んできたのね」

翌朝、ロビーでコーヒーを飲みながら花梨は

「昨日のあなた、決まってたわよ。

プロの集団を一気に独り占めしたんだから。

音楽やりたいんでしょ!

東京に出てきなよ、落ち着くまで私のマンションに住むといいよ。

そうしなよ、それに、あんたの云うフレイの別の顔も見てみない?

今、私がこうして歌っているのはフレイさんのおかげなのよ」

「そうですか。フレイさんて凄い人なんですね。

私、父と母に相談して花梨に連絡します。

私の心は決まってるからお世話になると思いますが、

その時はよろしくお願いします」

「待ってるね」2人は大阪を後にした。 

スタッフの1人が「花梨ちゃん、昨日のお友達は?」

「徳島に帰りました」

「あの娘、面白い娘だったね。磨いたら絶対に光るよ」

「そのうち上京するので宜しくお願いします。

あの娘、私の師匠からの預りものなの」

「任せてよ。彼女は天賦の才がある」
スタッフの目は未来の由美子の姿を描いていた。


それからひと月後、由美子は上京し花梨のマンションで世話になった。

SANGAにも顔を出し会員仲間とも直ぐに馴染んだ。

【SANGA(神々の戦い)】 14

August 13 [Wed], 2014, 5:59
14、「束の間の平安」

 SANGAの活動は個人の霊性の開発を目的とし、

宗教とは大きく異なり、崇める対象は存在しない。

あくまでも自分の内なるハイアーセルフ(高次の自己)
に触れる事を目的としていた。

フウキは東京の事務所にいた。

「ごめん下さい」 

「はい!いらっしゃいませ」30歳前後の女性の訪問であった。

フウキが応対に出た。 

「こちらの会のお話を聞きたくて伺いました」 

「はい、どうぞこちらに」フウキは笑顔で応えた。 

「私は菅野といいます。

こちらは宗教と違い自分自身の本質に触れる為の会と聞きました。
私はハイアーセルフに繋がりたいんです。 

その辺の事が聞きたくて来ました」

「ハイアーセルフには誰でも無意識で繋がってるんですよ。 

あなたはそのハイアーセルフに繋がって、

どうしたいとか具体的に何かありますか?」 

「はい?とりあえず繋がりたいんです」 

「そうですか。多くの方はそう言います。
 
因みに貴女は今、パソコンの前にいると仮定して下さい」 

「はい」

「そのパソコンは既にネットに繋がってます。

なのに、貴女はそのパソコンがネットに繋がればいいのにと
思って座ってるんです。 

ここまでの話しで何が足りないと思いますか?」

「入力ですか?」 

「そうですよね!入力しないと応えてくれませんよね。 

では、貴女はどうですか?」

「入力してない・・・」 

「はい!ハイアーセルフは絶対におせっかいしません。 

貴女が聞いてもいない事に応えるはずがありません。

というか応えようがありません。
 
聞く聴かないは貴女次第とも云えます」

「私次第ですか?」 

「はい。これは多くの人にも云える事なんですが。

ただ漠然と聞こえないと云ってるだけで、

具体的に何が聞きたいのか?そこがポイントです。 

ネットだと聞きたい事や調べたい事にはキーボードを打ち込むのに、

こと、こういう世界では漠然としていて限られた人しか聞こえないと思い込む。

まるでとっておきのインスピレーションか何かが得られると思いがちですが、
そんなお節介はありません。 

こちら側が求めて初めて応えてくれるんです。

パソコンと同じでこちらが入力しないと応えてくれない。
 
但し!パソコンは答えを教えてくれるけど、

この世界は答えを教えてくれません。答えは自分で出すんです」 

「では、聞く為のコツは?」 

「少しやってみましょうか? 深い深呼吸を3回して下さい。 

次に自分の内面の肯定です。 

目を閉じて内面を見つめて下さい。

途中の誘惑に耳を傾けないで進んで下さい。 

頭を使わないで全身で感じて下さい。 何か見えますか?」

「いいえ」 

「何か聞こえますか?」 

「お・か・え・り・な・さいって聞こえます。チョット待って下さい?」 

「聞き直さなくていいです。 

その声の発信元がハイアーセルフです」 

次の瞬間、彼女の目から涙が溢れていた。

「私は何年もハイアーセルフに話しかけて来ました。

本当に本当に自分の中にあったんですね・・・」 

「今度から沢山、聞きたい事をハイアーセルフに聴いて下さい。 

幾らでも応えてくれますから。

早い時は全部聞き終わらないうちに答えが返ってきますよ」 

「どういう事ですか?」 

「繋がると云う事はそう言う事なんです。 

時間差が無いんです」

「時間差が無い?」 

「この世は時間差をもうけていますが、

本来は時間という概念は無いんです。
 
原因と結果が同時にあるという事です。 

質問と答えが同時にあるんです」 

「もうひとつ宜しいですか?」

「どうぞ」 

「悟りとは?」 

「自分に返る」

「自分に返る?ですか・・今日はありがとうございました。
貴重な経験をさせてもらいました」 

「お役に立てましたか?」 

彼女が帰ってから、話しを横で聞いていた摩耶はフウキに質問した。 

「フウキさん、彼女にいきなり突っ込んだ話ししましたけど、珍しいですね」 

「うん、彼女は魂が欲していたんだ。

話の内容と云うよりも、

この場の波動を感じたかったんだ。

潜在的な部分でね。

これからも今みたいタイプの訪問者が多くなるよ」

「フウキさんは今のような人が来たら一瞬で透視するんですか?」

「そうだよ。一瞬で、少なくても7通りの観点から視るよ。 

車に例えると、外観・足回りタイヤの色と質・エンジン性能・

それに付随するメカ・走りの能力・内装のデザイン質・

どんなユーザーを対象にしてるか、

等々、車だけでもこれだけの見方が出来るんだ。 

人間を越えると、この車のデザイナーやメカ設計者の性質、

どんな気持ちで設計したか等も視えるよ。 

人間も一方向や二方向じゃ相談相手に失礼でしょ?

最低でも過去・現在・未来を視ないとその人の本質を語れないよ。

それが僕の立場でありSANGAの立場でもあるんだ」

「私、そこまで視てませんでした・・・」摩耶は下を向いた。 

「摩耶ちゃんは表現の仕方が僕と違うだけなんだ。 

現に久慈さんがそうだよ。

彼には言葉で表現出来ない摩耶ちゃんの一面が伝わったんだ。

僕と摩耶ちゃんは伝え方が違うだけ。

方向性は一緒だけどね。

もっと言うなら、僕は摩耶ちゃんの様に詩と書だけで人間を
感動させる事は出来ないよ」

2人の前には摩耶が久慈に送った詩が飾ってあった。

その頃、世界は戦争や経済のバランスが崩れる等、相変らずの様相であった。 

久慈が死んでも世界の在り方は依然として何ら変わる事なく運営されていた。

自然環境も「観測史上初」という言葉が当たり前になっていた。

久慈の後継者に指名されたのは、韓国のキム・シャウンだった。

彼は武闘派でならした存在で、別名「アジアのハリケーン」
という通り名が付いていた。 

キムから日本の裏社会に指令が出ていた。 

「SANGAの宮園を1ヶ月以内に抹殺せよ」との指令だった。

以前とは違い、表に出て活動を始めたSANGAは知る人ぞ知る存在だった。 

彼らにとってフウキの行動パターンは手に取るように把握できた。 

SANGAにフウキから招集がかけられた。

「皆さん、忙しいところ集まっていただきありがとうございました。 

今日は緊急の波動チューニングをします。

これが最後になるので一気に引揚げますから、

100%僕に任せて下さい」

シバが何かを察知して口を開いた。 

「フウキくん何があったの?緊迫した雰囲気がするんだけど?」 

「気のせいですよ、シバさん。

今日は全員、同時に波動チューニングするので事務所を閉鎖して円陣組んで座って下さい」 

事務所は閉鎖され、薄暗くして円陣を組んだ。 

「各自、サンガの守護者を意識して繋がって下さい。 

その守護者と一体になったら、そのままサンガの宮で集会をします。 

創造の宮のアメンに僕が繋がるので全員、僕に集中して下さい」 

しばらくして7人全員がひとつになり、

意識はアメンと繋がり次元を越え全員が、

ある一定方向に向けて上昇した。 

大いなる存在と初めて繋がった瞬間であった。

全員が宇宙の始まりと終わりを体験した。

サンガの宮で7日間を過ごし、事務所に戻った。 

誰も声も出さないまま目を瞑っていた。

フウキが口火を切った。 

「今日はこれで終わります」あっけない言葉だった。 

それから1時間あまり声を発する者もなく事務所には沈黙が続いた。 

フウキ以外の全員は初めて強烈な体験を味わっていたのだった。

外はいつの間にか夕闇に包まれて、

6人は現実の世界に戻る事が苦痛にさえ思えた。

我に帰った時には、もうそこにフウキの姿は無かった。