ホットココア 

2007年02月04日(日) 1時09分
「・・・つッ」

ビリッと舌に鋭い痛みが走った。

「どした?」

台所に立ってたシバが首だけこっちに向けた。
うわお前包丁持ってんだろ危ねぇよ。
けれどそれは思うだけに留めて、何もいわずべーっと舌を出した。

「お前・・・ちゃんと冷ましてから飲めよ」

いかにも呆れてますという溜息を吐いて目の前に屈んだシバが、俺の持ってたマグカップをテーブルの上においた。
言い返したかったけどビリビリとした痛みのせいで舌を動かせない。くそう。
あ、なんか痛みのせいで涙出てきた。
くそー!

「なーにお前煽ってんの?」

ニヤニヤと笑うその顔がなんかむかつく。ので、蹴った。
けど、そんなの全く気にしない態度で逆に足をポンポンと叩かれた。

「ハイハイわかったから」

何がだよと思う間もなくシバの顔が近づいてきて、えっまさかと思ったときには俺の口は塞がれていた。
すぐさまぬるりと入ってきた舌が俺の口をゆっくりと舐める。

イッテェ・・・!
お前火傷したとこわざと舐めてんだろ・・・!

思った以上の痛みにぎゅっと目をつぶるとシバもぎゅっと抱きしめてきた。
わーお前なに盛ってんだよーー!!
せめてもの抵抗にシバの背中を叩いた。そりゃもう思いっきり。何度も。





「甘いな」

しばらくしてやっと口を離したシバは、俺の恨みがましい睨みを軽くかわして笑顔でそうのたまった。

「唾付けときゃ治るだろ」とも。い、いけしゃあしゃあと!

けれど痛みと息苦しさに何も言えない俺は、
機嫌よさげに鼻歌まで歌いはじめて料理を再開したシバをただただ睨み続けた。


ていうかお前の唾液じゃなくてもいいじゃねぇか。もともと俺の唾液があるんだからよ!

白紙 

2007年02月02日(金) 22時21分
「なんでだよ」

目の前の男はさっきから目を合わせない。

顔は俺を向いているけど、目線は、下。
テーブルに肘を付き、手元の煙草を一本弄んでいる。
しかも、興味なさ気に。
火は、付いてない。

俺はイライラしながら、もう一度。

「なぁ、なんでだよ」

コロ・・。
煙草がテーブルに転がった。

二人の目線がそれに集中する。

「・・・」
「・・・」

会話が無くて。

くそぅ、聞いてんだから少しは返事しろってーの。
またイライラが胸に溜まってきた。
大体、なんで俺がこんなに気にしてんだよ。
くそっ。
ずっとリズム狂わされっぱなしだ。
少し落ち着こう。

さっき注文した手元のジュースを、ストローで一口飲む。
甘ったるくて、懐かしい味が、口の中に広がる。
それから、一緒に付いてきたスプーンで、その上に乗っかっているアイスを少しかき回す。
真っ白いそれが、着色料たっぷりの緑色の液体のなかに混ざる。


透明な緑色が、すこし濁る。
段々、透明じゃなくなってくる。
手を止めて、なんともいえないその微妙な光景を眺めていた。



カチッと軽い音。



なんだろう。
向かいを見ると、あいつが白い煙を吐き出していた。
なんか、ため息を吐いているみたいで。
だからなんか言いたいことがあるなら言えっつーの。

その煙が店の天井に消えていくのを、やっぱりなんとなく眺めた。


白って、なんですぐ消えちゃうんだろ。


緑色に混ざっていくアイスクリームとか、空気に溶けていく煙とか。
そういや雪も、人肌に触れるとすぐに解ける。


白いかどうかはわからないけど、けれど、俺たちの関係も本当は白かったのかもしれない。

初めから何も無かったかのように。

カルボナーラ 

2007年02月02日(金) 21時49分
「クリームが気持ち悪い」

「じゃあリクエストすんなよ。ついでに食うな」

「勿体無いじゃん」

はぁ、と溜息をついてシバはフォークを置いた。
そのままグラスに入ってる水を飲む。

「じゃあお前が普通に食えるやつリクエストしろよ」

「腹減ってたんだよ。カルボナーラならすぐ作れるだろ」

「インスタントのソースあるだろ」

「なんでシバがいるのにインスタント食べなきゃなんだよ」

いつも食べ始めはうまいと思うんだけど、だんだん食べてると飽きてくる。
このいかにも「濃いです!」と主張してる感じのねっとりクリームが胸の辺りに支えるっていうか。
口の中だけでも、と一緒に並んでる大根サラダ(ドレッシングはもちろんさっぱりしたノンオイル)にフォークを突き刺した。

「俺は飯炊き係か」

頬杖を突きながらシバが呆れた声を出した。

「今更じゃん」

さっきよりも幾分か口の中がさっぱりしてきたところで、またフォークにパスタを巻き付ける。

「お前も料理覚えろよ・・・」

シバもフォークを持ち直す。

「必要ないよ」



目線は合わせてやらない。
思ったよりたくさん巻きついてしまったパスタを解してもう一度巻き直す。
マナーはシバの前だから知らない。
そのまま皿を見ていたら、シバの手が視界に入ってきた。
右頬をぐっと拭われる。
そしてその手はまた視界から消えた。
チラと前を見れば、シバは指についたクリームを舐めながらこっちを見てにやりと笑った。


俺とお前は料理人とお客。
互いに専属の、だ。
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