忍足が大阪に帰ってから随分経ったと思っていた。
それを岳人に言うと心底不思議そうな顔をされたのだ。
『何言ってんだよ、まだ1ヶ月だろ?』
岳人にとって1ヶ月は“まだ”なのか。
俺にとっての1ヶ月は──寂しさに耐えきれなくて、頬に涙が伝うくらい、長い。
暇さえあればカレンダーを眺めている。
まだ1ヶ月、と言った言葉を考えてみる。
そっとカレンダーに触れ、パラパラと数枚めくってみるが、すぐに視界が歪んでしまい、前が見えなくなった。
いつからこんな風になってしまったんだろう?
『誰よりも、何よりも強くて綺麗な跡部が、俺は好きやねん』
そう言って笑った忍足は、今の俺でも好きだと言ってくれるのだろうか。
今の俺は、こんなにも弱い。
ある日部活中に突然ぶっ倒れた。
最初、自分に何が起こったか全くわからなかった。
先輩や、他の仲間たちはこぞって
『受験で鈍ってんじゃねぇの』
だとか
『あの跡部が倒れるなんて』
だとか好き勝手言っていたが、宍戸や向日にはバレていたようだった。
食欲はねーし夜だって充分に眠れてねぇ。
俺は白い保健室のベッドの上で、幾分か細くなった手首を見つめた。
がむしゃらに練習に練習を重ねて、俺は正レギュラーを勝ち取った。
高等部に上がっても氷帝テニス部のシステムは変わることはなく、むしろ人数も増えのしあがるのも容易ではなかった。
多少疎まれたり妬まれたりもしたが、俺は地区大会でシングルス3を任された。
何も感じない。
何も考えない。
胸をせり上げる苦しさを振り切るように、俺は脇目もふらず走っていた。
そんなある日の午後。
昼休みにジローに呼び出されて中庭へ。
「跡部の正レギュラー昇格、宍戸の準レギュラー昇格祝い!」
そう言われてついて行くと、ぽかぽかと陽の当たる場所にシートをひいて、菓子やらジュースやらを広げている向日と滝が見えた。
「お前ら……」
「さ、座って座って。跡部のお祝いなんだから」
呆れた顔をした俺に、滝が手招きで座るように促す。
小さくため息をつき大人しくシートに座ると、目の前にいた向日がその大きな目でありありと瞠目し、急に立ち上がった。
「何や、こんなとこおったんか…高等部はややこしくて迷子なったわ」
ドクン、と胸が跳ね上がった。
聞こえてきたのがいるはずのない奴の声だから、ではなく
ずっと待ち望んでいた奴の声だったから。
「跡部が、俺がおらんとあかんって言うから、戻ってきた」
まるで中学生の頃と何も変わらないと言った様子で忍足は俺の隣に腰を降ろす。
久々に見た忍足は、少々大人びて見えた。着ているのが制服ではなく、私服だからかもしれない。
「ば……かじゃねぇの…」
「うん。ほんまは俺が跡部おらんとあかんかったんやけどな」
やっとの思いでそう呟いた声は、震えていた。
忍足は困り顔で、だけど優しく笑うと、体温の低い手のひらで俺の頬を包む。
「ばか…忍足…」
「跡部、ただいま」
「……おかえり」
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